頂き物

□夢幻狂騒曲
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ビシッ…!

ピシッパシッ…!



ヒュンッ…!






広いホールに鞭の乾いた音がなり響く。




ビシッ…!

ピシッパシッ…!






壁に磔にされた葬儀屋の体に、鞭が縦横無尽に打たれる。





「…っ、…ぅ…!」




葬儀屋は、その美麗な顔を苦痛に歪ませ、堪えるように唇を噛み締める。





ヒュンッ!



ビシッ…バシッ…

ピシッ…!






「…くっ、…ぅ…!」





長い銀髪は振り乱れ、身体から滲む汗と鮮血が、キラキラと煌めきながら床に迸る。






ヒュンッ!



ビシッ…バシッ…

ピシッ…!




ヒュンッ…!






黒衣はズタズタに切り裂かれ、その隙間からは艶めかしい白い肌が垣間見える。






ピシッ…

ピシッ、パシッ…!!




シュンッ!

バシッ…!!






ジャラララッ…

ガチャ…!





腕は枷が食い込み、すでに痛々しいほど血が滲んでいた。





「うぁっ…!はぁ…はぁ…」





意識が遠退きそうになると、まるで頃合いを見計らったように鞭が止められる。





「はぁ、はぁ…はぁ、はぁ…」





荒く息を乱し、苦しそうに肩で呼吸をする。





「フフッ…どうです?認める気になりましたか?」



「はぁ、はぁ…じょ、冗談じゃ…ない…よ」



「往生際の悪いお方だ。貴方自身は、まだ気付いておられないのでしょうが、身体は正直なものです。…現に、ほら―――」





副協会は無造作に鞭を投げ捨てると、そのしなやかな指先を、黒衣の隙間に忍び込ませた。





ツツツッ…ッ…



ゾクッ…!





這うように肌を撫でられる感触に、葬儀屋の身体がビクッと強張る。





「―――っ…!」





冷たい指先が素肌に触れるたび、更なる嫌悪感が沸き上がる。





「い…いい加減…にっ!」





八つ裂きにしたい衝動に駆られるが、鎖の拘束は意外に頑丈で、いくら引き千切ろうと力を込めても、まるでびくともしなかった。





―――なんだい、この鎖は!?

どうしてこうも頑丈なんだか

あの時は、簡単に引きちぎれたのに…。







「うっ、…く、くそ…っ!」






拘束から逃れることも出来ず、自由を制限された体に対し、苛立ちを感じ始めた頃―――。






―――ドクンッ!






「…ぁ、う…っ!?」






何かが、葬儀屋の中で騒ぎ始めた。





血が逆流するような感覚に、眩暈まで感じる。






「フフッ…こんなに身体を熱くさせて…」


「…っ、…くぅ…」


「やはり、貴方は望んでいるのですよ」


「なっ、…何を…?」


「私に、こうされたい…と…ね?だからこそ、こうして私を、夢の中へと誘って下さったのでしょう?」







―――は!?

小生が、君を呼んだ…?

そんな、ありえないだろう?

笑えない冗談だよ。







しかし、副協会長の言葉は、まるで呪文のように、葬儀屋の頭の中をグルグルと回る。







―――ドックンッ!





あの時と同じだった。





まるで媚薬を盛られた、あの時と同様に、体中が熱を持て余し始める。





「…う…っ…」


「さぁ、素直に貴方の望みを…」


「…っ…!」






息も荒く乱れ、苦しいほどの渇きが襲う―――。





「はぁ、はぁ、…うっ…」



「我慢は体に良くありませんよ?」






いつの間にか、神父服のボタンは全て外され、上半身が曝け出されていた。冷たい外気が肌を掠めるだけで、背中がゾクゾクと震える。






「はぁ、はぁ…、…くっ…!」


「…さぁ、…我が君…」





副協会長は葬儀屋の首筋に顔を埋めると、そのままなぞるように肌の上に舌を這わせた。まるで滑らかな肌の感触を楽しむように、ねっとりと味わうように肌を貪っていく。





「はぁ、うっ、…ぁ、…っ…!」


「フフッ…ほら、貴方も感じているではありませんか?」





副協会長は楽しげな笑みを漏らすと、その手を更に下へと伸ばした。





「はぁ、はぁ、…ちょっ!?…ん、…ぁ、…ど…どこ…さわっ…っ、…ん、…はぁ」





当然、葬儀屋は体を捩り抵抗するが、不意に耳たぶを噛まれ、思わず声を漏らしそうになる。





「ふ、…っ!…くっ……」



「我慢する事はありません。さあ、感じるままに声を…」





不覚にも声を漏らしそうになり、慌てて唇を噛みしめる。





「…っ、ふっ…、く…んっ…!」





体中がザワザワと粟立つ感覚に、眩暈を感じ始めた頃―――。





カチャ、カチャ…




聞き慣れた金属音が近くで聞こえた。




カチャ、カチャ…





嫌な予感が頭を過ぎり、葬儀屋がそちらに視線を向けると―――。





「―――っ…!?」






カチャ、カチャ…





自分の腰に巻きつけているベルトのバックルを、外そうとする副協会長と目が合った。





「ば、馬鹿!…なっ、…ぅ…!な、なに…を…す…っ」



「フフッ…こんなに熱くして、はち切れそうですよ?」



「や…めぇ、さ…わっ、…ふっ…ぁ…」



「今、楽にして差し上げます」






カチャ、カチャ…






解かれていくベルトのバックル。

崩れ落ちそうになる気力と理性。







「く…、くっ…そぉ…!」






う、嘘だろう〜!!?

ちょっ、止めておくれ!!

小生にそんな趣味はないんだって!!

例え夢だろうが何だろうが

鬼畜野郎とヤルなんて

想像しただけでもおぞましい!





あの時は―――。

恵梨華が乗り込んで来てくれて

無事、事無きを得たけど…。






……………ん?

ああ、そうだ。そうだよ!

恵梨華、恵梨華だよ!

ここに恵梨華を呼べばいいんだ。

ここは小生の夢なんだから

少しくらい小生の意思を

反映できるはず―――。








葬儀屋は意を決すると、ありったけの思いを込めて、噛みしめていた唇を開け声を上げた。







「は…ぁ、…っ、…え…恵梨華…っ!!」







バターーーーーーンッ!!!






大きな音が聞こえた瞬間、ホールの入口は大きく解放され、眩しいほどの光が溢れ始める。






パアァァァァ…ッ…





目を細めて眩い光りを見つめていると、光の後ろから、ゆらりと女性のシルエットが浮かび上がった。






カツコツカツコツ…





一歩一歩、ゆっくり階段を下りて来る足音。






カツコツカツコツ…





眩しい光の中を歩いてくるシルエット。

それは、紛れもなく

愛しい彼女の姿だった。






「ああ、恵梨華。来て…くれたんだ…ね」





カツコツカツコツ…





近づいてくる足音に安堵の表情を浮かべると、そのまま光に包み込まれるように、葬儀屋はゆっくりと意識を手放した。
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