短編夢小説V
□色気と美貌のハーモニーU
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屋台の並ぶ石畳の地面を二人はゆっくりと歩いて行く。
葬儀屋は歩幅の狭い恵梨華に合わせて歩いているのか、距離が離れたりはしなかった。
「ヒッヒ・・・さっきから小生ばかり見て・・・どうしたんだ〜い?」
「いや・・・いつもと全然雰囲気が違うからつい・・・ね」
普段はあまり見ることのできない顔や、胸元にどうしても目線がいってしまう。
葬儀屋に指摘されたことでとっさに目線を外した先に、大きな兎のぬいぐるみが目についた。
ムスッとしているような表情をしているが、どこか憎めない。
「おや・・・射的だねぇ〜?恵梨華はあれが欲しいのかい?」
「あ、そうじゃないんだけど・・・何か気になっちゃって・・・」
恵梨華の目線の先の兎に気がついた葬儀屋の言葉に、恵梨華は微笑みながら答える。
「へぇ・・・それじゃあもう少し近くで見てみようか?」
葬儀屋の言葉にコクンと頷き、手を繋いで射的の屋台に入っていく。
「やっぱりこの子可愛いね」
恵梨華は葬儀屋に笑いかける。
「へいらっしゃい!おや、二人ともが綺麗なカップルだねー!モデルさんか何かかい?」
そこへ、射的の出店の主がここぞとばかりに二人に話しかけてきた。
「い、いえ・・・そんなんじゃないですよ」
思わず恵梨華は否定する。
「ありゃ、そうなのかい?まあいいや。それはそうと旦那、ここは彼女にいい所を見せるチャンスだぜい?」
「ん〜そうだねェ・・・それじゃあ一回やってみようか」
「まいど!」
出店の主から銃と3つの弾を渡され、位置につく葬儀屋。
「アンダーテイカー頑張って!」
恵梨華はの声援を受けながら、黒い兎に銃口を向ける。
「おや、そいつを狙うんで?そいつは弾3発じゃあ足りねーよ!何度も当てて、ずらして落とすってのが・・・」
出店の主がいい終わるより先に、パスっという軽い音が響いた。
軽い音と共に打ち出された弾に、それほど威力はないはずなのだが、たった一発で兎が台から落ちた。
「アンダーテイカーすごい!どうやったの!?」
「ヒッヒッヒ・・・秘密だよ〜。それより落としたんだから貰ってもいいかい?」
「あ、ああ!すごいな旦那!未だに一人も落とした奴ぁいなかったってのに!」
恵梨華の質問をを軽くかわし、驚きに唖然としていた出店の主は我に返り、ぬいぐるみを手渡してきた。
「ヒヒヒッ、ありがとう。ほら・・・恵梨華?」
「ありがとう!アンダーテイカー!」
受け取った兎を、今度は恵梨華へ手渡した。
恵梨華は予想以上にフカフカなそれをぎゅっと抱きしめ、葬儀屋に満面の笑顔を返した。
それから射的の出店を出てしばらく歩いていた。
その間は取りとめのない話しをしていたが、恵梨華の目に赤い丸い物が映った。
「あ、懐かしいな、りんご飴だ。」
「ん〜?ほんとだねぇ」
「ちょっと買ってくるから待っててね」
恵梨華は、ふかふかなぬいぐるみを抱きかかえながら出店へ向かっていった。
手に抱いている兎が邪魔して、うまく買えない恵梨華を見て、葬儀屋は少し吹き出してしまった。
それに気付き、恵梨華が少し怒っているようだ。
それから間もなく、恵梨華はカランコロンと音を立てて葬儀屋の元へ戻ってきた。
「りんご飴って甘くて美味しいよね」
再び歩き出した二人だったが、葬儀屋の隣でりんご飴を舐めていた恵梨華が、葬儀屋を見つめていた。
「ああ、そうだねぇ〜」
恵梨華がりんご飴を舐めている姿が色っぽく、密かにドキリとしてしまっていた。
「はい、アンダーテイカー」
「なんだい?これは?」
「アンダーテイカーは食べないの?」
先程まで恵梨華が食べていたりんご飴が、葬儀屋の目の前に差し出されていた。
葬儀屋は何のことかわかっているのだが、つい聞いてしまうぐらい動揺していた。
「じゃあ・・・貰おうかな」
葬儀屋は差し出されたそれを少し舐める。