短編夢小説V

□伝説の死神の涙
2ページ/2ページ

「・・・・・・恵梨華・・・・」





結局恵梨華を見つける事が出来なかった葬儀屋は店に戻ってきていた。





「恵梨華・・・・」





葬儀屋は力なく床に崩れ落ちた。





そして壁にもたれかかると深いため息をついた。





「あのとき小生があんなコトを言ってなければ・・・」





その綺麗な瞳に涙がたまっていた。





近眼で見えない視界が更に歪んでいく。





「小生が・・・悪かったよ・・・・・・・恵梨華・・・」





ツーッと頬を涙が伝った。





葬儀屋はその涙を拭う力すら残っていなかった。





そんな時だった。





―キィィィィ・・・





ゆっくりと店の扉が開かれていく。





「・・・・・た、ただいま・・・」





扉の前には何時間と探して見つからなかった恵梨華の姿があった。





「恵梨華!」





気付けば葬儀屋は、恵梨華を勢いよく抱きしめていた。





「わっ・・・!」





突然の出来事に驚く恵梨華。





「小生が・・・・悪かったよ・・・・」





震える声、震える身体。





恵梨華はいつもと違う葬儀屋に戸惑っていた。





「アンダー・・・テイカー・・・?」





恐る恐る名前を呼ぶ恵梨華。





すると葬儀屋は自分の唇を恵梨華の唇に押し当てた。





「んっ・・・!」





目を瞑っていなかった恵梨華は、葬儀屋の頬が濡れている事に気が付いた。





ゆっくりと離れていく唇。





恵梨華は優しい眼差しで葬儀屋を見つめていた。





「私の為に・・・泣いてくれたんだね・・・」





「・・・・・もう・・どこにも行かないでおくれ・・・」





恵梨華は葬儀屋の涙のあとに唇をそっと寄せた。





「心配かけちゃってごめんね・・・もうどこにも行かないからね・・・」





その言葉に安心したのか、葬儀屋はフラッと意識を失った。





「ッ・・・・!」





恵梨華は慌てて葬儀屋を抱きとめた。





「(こんなになるまで私の事・・・・)」





恵梨華はそのまま葬儀屋の身体を棺に移動させると、自分もその棺の中に入った。





「おやすみ、アンダーテイカー」





スヤスヤと眠る美しい王子様にそっと口付けをすると、恵梨華もそのまま眠りに落ちた。
























次の日、恵梨華が目を覚ますと一緒に寝ているはずの葬儀屋の姿が見当たらなかった。





「あれ・・・?アンダーテイカー・・・?」





眠い目を擦りながら、恵梨華が棺の蓋を開けた。





「ヒッヒッヒ・・・おはよ〜う?」





いつも通りの不気味な笑みを浮かべる葬儀屋がカウンターに座っていた。





店に漂う香ばしいクッキーの匂い。





恵梨華はゆっくりと棺の中から出た。





「おはよう、アンダーテイカー」





真っ直ぐと葬儀屋の方に行くと、葬儀屋の隣に腰掛ける。





「昨日は・・・すまなかったねェ・・・重くなかったかい?」





「ん・・・大丈夫だったよ。むしろテイカーは軽すぎるくらいだよ」





クスリと笑う恵梨華。





そんな恵梨華に葬儀屋も自然と笑みが零れた。





「・・・ところで恵梨華・・・その・・・昨日は一体どこにいたんだい?」





「あ・・・いや・・・実は・・・・・・迷子の子犬を・・・」





恵梨華の話を聞いた葬儀屋は、暫くポカーンと間抜けな表情をしていた。





そして堪えきれなくなったのか、突然蹲った。





「ブッ・・・アーッハッハッハッハッハッハ!」





苦しそうに大爆笑する葬儀屋。





「わ、笑いすぎだから・・・!」





ぷぅっと頬を膨らませる恵梨華。





再び二人に平和な時間が訪れた瞬間だった。



-END-
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ