短編夢小説V

□死神の涙
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それは突然の出来事だった。





道は警察により通行規制されており、道の真ん中で馬車が止められていた。





そしてその周りには野次馬と思わしき人だかりができている。





ちょうどそこへ、買い出しに行った恵梨華の帰りが遅いのを心配し、探しに出ていた葬儀屋が遭遇した。





最初から嫌な予感はしていたが、その光景を見てそれは突然大きく膨らんだ。





野次馬達の話しからすると、馬車に人がひかれたこと、そにてひかれたのは若い女の子だったことがわかった。





「その女の子がどこに運ばれたか知らないかい?」





珍しく慌てた様子で、近くにいた人に早口で尋ねる葬儀屋。





すると近くの大病院に運ばれたことがわかった。





「(無事でいておくれ・・・!)」





焦る気持ちを抑えながら、屋根伝いにその病院へ飛んでいく葬儀屋。





病院に着いた時、その女の子は手術の真っ最中だった。





ナースに、自分が知り合いかも知れないと言うと、ボロボロになった靴を持ってきた。





「これは・・・恵梨華の靴だね・・・」





それを見るまでは、実はどこかでまだ迷子になっているだけだと思うようにしていた。





しかし、今自分の手の中にあるそれは紛れもなく恵梨華が今朝履いていた靴だった。





「ああ・・・お願いだ・・・死なないでおくれ・・・」





手術室の扉の前で祈るようにして待つ葬儀屋。





数時間後、扉が開き中から手術を担当していたと思われる医者が出てきた。





医者が言うには、手術は成功したが目が覚めるかはわからないと言う。





「小生は信じているよ・・・」





それから数週間が経ったある日。





「ん・・・」





「ッ・・・・・!」





ゆっくりとだが、恵梨華の目が開く。





「き、気分はどうだい!?」





ベッドの下からひょこっと現れ、興奮を抑えきれない表情で恵梨華を驚かせようとする葬儀屋。





「・・・・・」





しかし恵梨華は葬儀屋の方を見ようともしない。





「恵梨華・・?ど、どうしたんだい?小生はここだよ・・・?」





「・・・・・・」





葬儀屋はどうにかして恵梨華の気を引こうとするが、恵梨華は全く反応しない。





「これは一体どういうコトなんだい・・?」





後にそのことを医者に尋ねると、頭を強く打ったのが原因らしい。





意識が回復したこと自体が奇跡だったらしい。





「・・・こればっかりは小生でもどうするコトもできないよ・・・」





再び恵梨華の病室に戻った葬儀屋は、安らかな寝息を立てている恵梨華の手を握り続けた。





死神である自分にでさえどうにもならないということに、強く無力さを呪ってしまっていた。





「でも諦めないからね・・・小生が恵梨華を必ず治してあげるよ・・」





しばらく入院した後、医者からの助言もあり葬儀屋の店へと戻った。





「それでねェ?ここで二人でよくお話ししたものさ・・」





葬儀屋は恵梨華との思い出を、思いつく限り語り聞かせる。





全く反応なくとも、いつか必ず治ると信じているからこそだった。





ある日回診にやってきた医者が、ほんの少しずつだが快復の兆しがみられると、驚いた時もあった。





その証拠に、葬儀屋の話しに時々頷くような仕草や、葬儀屋の顔をじっと見つめる日もあった。





「恵梨華が治ったら二人でもっとた〜くさん遊ぼうね・・・約束だよぉ・・?」





葬儀屋は恵梨華の手を取り、自分の小指と恵梨華の小指を絡ませた。





しかし、葬儀屋の願いは届かなかったようだ。





恵梨華はどんどん眠っている時間が増えていっていた。





「ごめんね・・・小生にはどうするコトもできないよ・・・」





自分の無力さと悔しさに、強く拳を握る葬儀屋。
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