短編夢小説V

□サディストな葬儀屋はどこまでも生き生きとしていて
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「けほっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」





もはや起き上がる力が無いのか、恵梨華は地面に倒れたまま苦しそうにむせていた。





「ぐっ・・・・・さすがに今の一撃は・・・効いたよ・・・」





葬儀屋も立っている事が出来なくなり、膝をついた。





「はぁ・・・はぁ・・・・・・死神は・・・やり方が汚いね・・・」





「ヒヒヒッ・・・武器を隠し持っていた君に・・・・・っはぁ・・・・言われたくないよ・・・」





静かな夜だった。





激戦の果てに疲れ果てた恵梨華は、重くなった瞼をそっと閉じた。





「恵梨華・・・?」





今までに聞いた事がないほど不安そうな葬儀屋の声。





恵梨華がそっと目を開けると、目の前には不安に揺らめく黄緑色の瞳があった。





「テイ・・・カー・・・?」





不思議そうに名前を呼ぶと、唇に柔らかい感触。





葬儀屋の唇が押し当てられていた。





「ッ・・・・ん・・・・!」





ねっとりとした舌が口内に侵入してくる。





口中に広がる葬儀屋の血と唾液の味。





「ふ・・・・・ッ・・・・・」





互いの味を確かめ合うように、舌と舌が絡まり合う。





貪るような激しい口付け。





―ポトッ・・・





夢中になっていた恵梨華の頬に、熱い何かが落ちてきた。





「(え・・・?)」





ハッと目を開くと、葬儀屋の綺麗な瞳から涙が零れ落ちていた。





「ッ・・・・!」





恵梨華は目を見開いて驚いていた。





その時の葬儀屋の瞳は今までに見た事もないほどに悲しく、そして優しい目をしていた。





そしてゆっくりと離れていく唇。





「ア・・・アンダーテイカー・・・?」





驚きのあまり、恵梨華が目をぱちぱちしていると、痛いほどにギュッと抱きしめられる。





「いっ・・・!」





恵梨華は苦痛の声を上げるが、葬儀屋は力を緩める様子はなかった。





暫く続く沈黙。





それを打ち破ったのは葬儀屋だった。





「・・・・・よかった・・・」





ボソリと呟いたその言葉はどこまでも優しい声色で。





恵梨華は全身に襲う痛みすらも忘れ、全神経が耳に集中していた。





「君を失ってしまったかと思った・・・・・生きてて・・・本当によかった・・・・」





微かに震える葬儀屋の身体。





恵梨華は静かに目を閉じると、葬儀屋の髪にそっと指を絡めた。





「私がアンダーテイカーを置いて逝く訳ないでしょ・・・?」





ふわりと笑う優しい笑顔。





葬儀屋は一瞬目を見開いて驚いたが、次の瞬間、極上の笑顔を浮かべた。





「(・・・悪魔もそんな風に笑えるんだね)」





絡み合う熱い視線。





そしてゆっくりと唇が重なっていった。





それは悪魔と死神には相応しくないほど、どこまでも優しい口付けだった―。



-END-
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