短編夢小説V

□全てを狂わせる銀の死神
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その日以来、恵梨華は葬儀屋の事が頭から離れなかった。





いつものように死神の職務を全うするが、目に浮かぶのはあの日の光景。





あの銀髪が、あの微笑が、頬に残るあの感触が。





何日過ぎようが、あの日の感触が生々しく残っていた。





「(アンダーテイカー・・・か・・)」





―トクンッ・・





葬儀屋の事を考えると、胸が締め付けられる思いがした。





「くっ・・・!」





恵梨華は苦しそうに顔を歪めた。





「(何なんだ・・・・あいつ・・・!)」





もやもやした感情が消えない。





その感情が恋だと言う事に気付かない恵梨華。





日々胸の痛みに耐えながら、変わらない日常は過ぎていく。





「ふぅ・・・今日も疲れたな・・・」





この日も仕事を無事に終えた恵梨華。





その足は、無意識のうちに葬儀屋の店へと向かっていた。





「・・・・・」





看板の”Undertaker”の文字をじっと見つめる恵梨華。





葬儀屋の店を訪れても、決して中に入ろうとはしない。





「(俺はなんで毎日ここに来てしまうのだろうか・・・)」





今日もまた、店の前で小さなため息をつき、そのままその場を去ろうとした。





しかし、この日はいつもと違っていた。





―キィィィ・・





不気味な音を立てながら、扉が開いていく音。





恵梨華はドキドキしながら、ゆっくりと扉の方を向いた。





「ヒッヒッヒ・・・そろそろ中へ入ってきたらどうだい?」





扉の前で不気味に微笑む銀色の死神。





恵梨華は静かに息を呑んだ。





「い、いや・・・俺は別に・・・」





少しずつ後ずさりする恵梨華。





葬儀屋はそんな恵梨華の背後に一瞬で移動すると、そっと肩に手を置いた。





「君が毎日ここを訪れていたのは知ってるよ・・・ヒッヒ・・知りたいんだろう?真実を・・」





低く囁くような甘い声。





恵梨華はその甘美な誘惑に誘われるがまま、葬儀屋と共に店に入っていった。





「さあ、ここへお座り?」





初めて入る店内。





珍しそうに店内をキョロキョロと見回す恵梨華。





人間にとっては不気味なこの店も、死神の恵梨華にとっては心地のよい店だった。





恵梨華は案内されるがまま、棺の上に腰掛けた。





「アンダーテイカー・・・お前が言う真実とは一体なんなんだ?」





「ヒヒヒッ、恵梨華はせっかちだねェ〜?折角来たんだ・・・お茶でも飲まないかい?」





まるではぐらかすようにお茶を取りに行こうとする葬儀屋。





恵梨華の瞳が強い燐光を放ったかと思うと、恵梨華は葬儀屋の首元にデスサイズを当てていた。





「お茶などいらない。・・・逃げる気か?」





恵梨華にデスサイズを突きつけられても、葬儀屋が動じることはなかった。





その綺麗な唇をニィッと不気味に歪ませる。





「殺せるかい?君に小生が・・・」





まるで恵梨華を挑発するかのように、自ら首を恵梨華のデスサイズに近づける。





恵梨華は驚きのあまり、葬儀屋の首から少しデスサイズを離した。





「ヒッヒッヒ・・・それが真実さ」





「ど、どういう事だ・・!」





恵梨華は声を荒げた。





動揺する恵梨華と違い、葬儀屋は余裕の表情を浮かべていた。





「君は小生に惚れているのさ。だから君に小生は殺せない」





「ほ、惚れている・・・!?何故俺が男に惚れなきゃいけないんだ・・!」





「言っただろう?・・・君は本当は女性なんだ」





「ッ・・・?!」





恵梨華は言葉を失っていた。





長い間、ネヴィル家の跡取りとして、そして男として育てられた恵梨華。





そんな恵梨華がそうやすやすと真実を受け入れられるはずもなかった。





「俺は・・・・男だ・・・!」





すると葬儀屋は恵梨華の手首を掴み、壁に押し倒した。





「ッ・・・・!」





間近で見るその吸い込まれそうなほど美しい瞳。





恵梨華の体温は一気に上昇していった。
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