短編夢小説T

□現代に来てくれた葬儀屋さん
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「私達、もうすぐ結婚するんだね」




幸せそうな笑みを浮かべる恵梨華。




しかし先程から話しかけている男の反応は薄かった。




「あぁ・・・」




考え事をしているのか、楽しそうに話しかけてくる彼女をまるで煙たがるようにしていた。




二人はかれこれ5年くらい同棲していた。




そして来月結婚する事が決まったのだ。




恵梨華は嬉しくて仕方がなかった。




しかし先程からの彼の反応に不思議に思ったのか、彼の顔を覗き込んで問いかけた。




「どうしたのー?」




彼は避けるようにくるりと後ろを向くと小さな声で、




「別れて欲しいんだ」




と言った。




「え・・・?どうして・・・?」




その瞳に涙をためながら震える声で理由を尋ねた。




「ごめんな」




謝るだけで理由すら答えようとしない彼。




そんな彼の腕に恵梨華は泣きながら必死でしがみついた。




「わ、私、何でもするよ・・嫌いな所があるなら言って・・?何でも直すからっ・・・!」




そんな彼女を男はただ冷たい視線で見ていた。




「・・・オレはただ、お前が金持ってるから一緒にいただけだし」




「え・・・」




「それに、結婚する気なんてさらさらねーのに、何でこんな事になってんだよ」




「・・・・」




「ったく、すんなり別れてくれるかと思ったのに・・・マジ気持ち悪いから触んなよ」




強引に腕を振り払い、男はそのまま出て行ってしまった。




一人部屋に残された恵梨華。




あまりの衝撃に一体何が起こったか理解出来ていなかった。




しかし涙は止まらず、頬を伝い首筋から彼女の服を濡らしていった。




「私・・・遊ばれてたんだ・・・」




静まり返った部屋でぼそりと呟く恵梨華。




部屋の静寂に耐え切れず、恵梨華はテレビをつけた。




目は真っ赤に腫れあがり、もう涙すら出ていなかった。




ぼーっと、ただひたすらぼーっと暗くなった部屋でテレビを見つめていた。




「あ・・・これ・・・」




昔見たアニメの再放送がやっていた。




番組名は”黒執事”。




そこに映る男を見てある事を思い出した。




「あ・・・アンダーテイカーだ。私昔好きだったなぁ」




そんな事を呟きながら、アハハ・・と乾いた笑い声を出していた。




「もう・・・寝ようかな・・・」




力なくそのままベットへ倒れこんだ。




「(あの人の匂いがする・・・)」




今はもういない彼の匂い。




そんな状況で眠れる訳もなく、フラフラとおぼつかない足取りで外へ出た。




真夜中の散歩。




外はとても静かで、まるでこの世に一人自分だけ取り残されたように感じだ。




恵梨華は川のほとりに座っていた。




「もう・・・死んじゃおうかな・・・」




独りぼっちになった恵梨華はもうこの世に未練なんてなかった。




両親は恵梨華が小さい時に亡くなっている。




頼る親戚もおらず、施設で育てられた恵梨華。




そんな恵梨華の唯一の支えになっていたのが彼だった。




しかし今はその彼もいない。




恵梨華が死ぬ決心をするまで時間はかからなかった。




一歩一歩、目の前の川に近づいていく恵梨華。




太ももの辺りまで水に濡れた時、突然声をかけられた。




「死のうとしているのかい?恵梨華」




聞き覚えのあるその声。




静かに声のする方に振り向いた。




「っ・・・!」




恵梨華は驚きのあまり息を飲んだ。
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