短編夢小説T

□せっかちな愛娘
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「あっ・・・恵梨華さん・・・!そのお方は・・・!」





ウィリアムが言った時には既に恵梨華の姿はそこにはなかった。





「すまないねぇ、ウィリアム君。あの子はちょっとせっかちな所があってね」





「い、いえ・・・そのような事は・・・」





「それで、その人間はどんな男なんだい?君なら知ってるんだろう?」





「実はその方は人間ではないのです。引退された伝説の死神と呼ばれたお方・・・ですよ」





「おぉ・・・!あのアンダーテイカー君だったのか!・・・さすが私の娘、目の付け所が違うねぇ!」





協会長は誇らしげに笑っていた。





ウィリアムはそんな協会長を見て、内心苦笑いをしていた。





「(私から見ればかなり変わった趣味だと思いますけどね・・・)」



























一方、人間界に降り立った恵梨華はロンドンの街で買い物をしていた。





「(とにかく、こんな格好ではダメね。あと瞳を隠すサングラスも買わなくては・・・)」





恵梨華は黒のドレスと、瞳を隠すサングラスを購入した。





「(うっ・・・久しぶりに眼鏡を外すと前が全然見えないわ・・・!)」





死神は皆ド近眼。





それは協会長の娘である恵梨華も同じ事だった。





恵梨華は購入したドレスを身にまとい、フラフラとした足取りでアンダーテイカーの店を目指した。





「あの・・・すみません、この辺りにUndertakerという葬儀屋さんはありますか?」





「あぁ、あの店だね。こっちの路地を真っ直ぐ行った所だよ」





「ありがとうございます」





恵梨華は軽くお辞儀をすると、教えてもらった通り歩いていった。






”Undertaker”と書かれた店の前に恵梨華は居た。





「(わぁ・・!何て素敵なお店なの・・・!)」





恵梨華はかなり変わった趣味の持ち主であった。





そしてゆっくりとした手つきで、その扉を開いた。





「こんにちは・・・・・って、あれ?誰もいないのかしら?」





「ヒッヒッヒッ・・・いらっしゃ〜い?」





どこからともなく声が聞こえてくる。





恵梨華はぼやける視界の中、必死に声の主を探していた。





ギィィィ・・・





バタンッ・・・!





奥の柩の蓋が倒れた。





「おやぁ?見ない顔だねェ〜?今日はどんなご用件かなァ〜?」





暗い店内。





おまけに恵梨華はサングラスをしている。





ぼやける人影にゆっくりと近づいていった。





「っ・・・・・!」





「あなたがあの時の方・・・?」





近眼の恵梨華は、アンダーテイカーとキスをしそうな距離まで近づいていた。





お互いの吐息がかかる距離。





アンダーテイカーはびくりと驚いた拍子に帽子を落としてしまった。





前髪の隙間から一瞬見えた黄緑色。





恵梨華はその瞳を見逃さなかった。





「え・・・?あなたも死神なの・・・?」





「あなたもって・・・君も死神なのかい?」





「え、えぇ。・・・ほら」





恵梨華はかけていたサングラスを外してみせた。





大きな瞳に美しく輝く黄緑色。





アンダーテイカーは一目見た瞬間、恋に落ちていた。





「でもあなたすごいわね、私なんて眼鏡外したら全然見えなくて・・・」





「あ、ああ・・・小生は死神を引退して結構長いからねェ〜?慣れたのさ」





恵梨華は眼鏡をかけ、改めてアンダーテイカーを見つめた。





そしておもむろにアンダーテイカーの頬に手を当てると、反対の手で前髪をかき上げた。





その瞬間、恵梨華の手が震えだした。





「(な、なんて美形なの・・・!こんなに美しい人だったとは・・・!)」





恵梨華の頬が真っ赤に染まっていく。





「あ・・・あなた・・・お名前は・・・?」





「ヒッヒッヒ・・・小生はアンダーテイカー。君は〜?」





「私は恵梨華よ。死神派遣協会長の娘」





「・・・あの協会長にこ〜んな可愛い娘が居たとはねェ〜?」





「か、可愛いだなんて・・!」





恵梨華はアンダーテイカーの前髪を持ち上げていた手を離し、自分の両頬を押さえた。
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