長編番外編

□とある日のキセキと私
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「ねえねえあっくん、実はね…私、宇宙人だったの」

「……………へー。じゃあ俺も凪ちんに秘密を教えてあげる。実はー、俺っていっつもお菓子持ってるけど、あれって四次元ポケットから取り出してるんだー。誰にも内緒だよー」

「え、うそ?!知らなかった!あれって空想の産物じゃなかったんだね!」

「嘘に決まってるしー。こんなの信じたの凪ちんが初めてだしー」

「………………………」















「ねえ真ちゃん、私ね実はね、宇宙人だったの!」

「それはちょうど良かったのだよ。実は俺の今日のラッキーアイテムは未確認生物なのだよ」

「え!?ほんとに?!そんなラッキーアイテムあるんだね!初めて聞いた!!」

「フッ、何を言っている。そんなことあるハズがないのだよ。…やはりおは朝のラッキーアイテム―――今日の台詞集、は役に立ったのだよ!」

「………………」














「ねーねー赤司くん聞いて!実は、」

「実は私は宇宙人だった。―――だろう?蓮が言いたいのは」

「っ!?すごーいっ!!何で分かったの?!」

「……誰にも言うなよ。実は俺の眼には、そういう能力も含まれているんだ」

「知らなかった…。任せてっ、誰にも言わないから!」

「ま、別に誰に言っても構わないが。なんせ嘘だし。緑間達に言っているのを聞いただけだ。……それにしてもあんな嘘を信じるなんて、やっぱり蓮は可愛いな」

「っ?!ど、どうせそれも嘘でしょ!?」

「フッ、さあ?蓮の想像にお任せするよ」

「っ、……………………」















「っ、ねえ黄瀬くん!私、」

「わーっ、蓮ちゃんだーっ!!聞いてくださいっス、実は俺、海外モデルにスカウトされちゃって、明日には日本発たなくちゃいけなくなったんスよ!」

「え、嘘っ、」

「嘘に決まってるっスよ!俺が蓮ちゃんを残して行くわけないじゃないっスか!」

「………あ、そう…」















「あ、青峰く、」

「おー、夕凪!実は俺、昨日ザリガニ50匹釣ったからさ、お前の家に半分ぐらい送っといたぜ!!大事にしてやれよな!」

「ひっ!?何その悪夢!え、ちょ、え……え?!!」

「……ぶっ!ははっ、何だその顔おもしれー!嘘に決まってんだろ!」

「……………………」















「……はあ。せっかくのエイプリルフールなのに、つまらん。……つまらんつまらんつまらーーんっ!!」


そう。何を隠そう今日はエイプリルフールなのにっ!一年で一日だけ嘘を吐いても良い日なのにっ!!



私の渾身の嘘に誰も引っ掛からないなんて思いもしなかった。しかも逆に引っ掛けられてばっかりだし…。

(どうすれば…)


「夕凪さん」

「っ!!…びっくりした、黒子くんか」

「どうしたんですか?ため息なんてついて」

「っ、うっ!黒子くんだけだよ私を弄ばないのはっ!」


黒子くん神だ!紳士だ!男の鏡だ!!


「あのね、―――――」










「――――――なるほど。つまり夕凪さんは誰かを騙したいと?」

「そうなの!何か良い方法ないかなあ?」

「……それなら、―――――」










「えっ?!本当にそれで引っ掛かるの?!」

「ええ、必ず。でもあくまでさりげなく、ですよ。間違っても『実は』なんて単語を使ってはダメです。それさえ守れば彼女は絶対に引っ掛かりますから」

「ふむふむ、よっしゃ了解です。任せといて!ではでは夕凪蓮、行っきまーす!ありがとう黒子くん、また後でねっ」



「――引っ掛かるのが一人なんて誰も言ってませんけどね」


(そして引っ掛かった彼らがやられっぱなしだなんてこともまあ、あり得ないでしょうね)



―――浮かれた私の耳に、そんな彼の不吉な言葉が入ってくることは無かった。











―――部活終わりの帰り道。



いつも通り賑やかな男の子達の数歩後ろを、さつきちゃんと並んで歩く。


そうして心持ち小声で話しかけた。

「ね、ねえ、さつきちゃん」

「ん?どしたの蓮ちゃん?」

「あのね、私、その……、」

「何々??すっごい気になる!」

「わ、私、その…    がいるの」

「え?聞こえないよ!」

「だ、だからー、」


うわー、やっぱり嘘ってすっごく緊張する!ここはとっとと言ってとっととネタばらししちゃおう。


「あのね、私ね、好きな人がいるの」

「………………」

「………………」

「えーーーっ!?」


ああ、これだ。私が求めていたのはこういうリアクションだ。さすがさつきちゃん!えへへ、余は満足じゃ。

「なーんて、うっ、「蓮ちゃんに好きな人ーーーっ!?」」


嘘だと言おうとした瞬間に叫んださつきちゃん。その瞬間に前を歩いていた皆が一斉に振り返ったのは見なかったふりをしたい。(だだだだってあの顔…ひーっ!!)


「あ、あのね、さつきちゃんこれは、」

「それ、どういうこと」


疑問符すらつけずに問われた疑問。

「あ、いや、征十郎様、これはその…」

「様づけなのは気分が良いが、さっきの話は見逃せないな。――なんなら一生俺をそう呼ぶかい?」

「え、遠慮しておきます!」


これは何を言ってもお叱りパターンだ。

「凪ちんは俺らのだし」

「…おは朝では言ってなかった展開なのだよ」

「俺よりかっこいい奴っスか!?」

「…つーか、まじで誰だよそいつ」

「あ、いや、なんていうか、」


黒子くんに助けを求めようと視線を向けても彼は我関せずの姿勢を貫いたまま本を読んでいる。え、紳士な黒子くんは何処へ行った?!


「だ、だからっ、好きな人がいるっていうのは嘘なのっ!エイプリルフールでしょっ!!」


「…ほ、ほんとに嘘っスか?!信じていいんスよね?!」

「そうよ!だいたい、恋愛する暇なんてないぐらいマネ業が忙しいことは皆が一番よく知ってるでしょ!」

「蓮ちゃーんっ、信じてたっス!」

「ぐぇっ、ちょ、抱きつくなっ!てか黄瀬くんが一番不安そうな顔してたんだけどっ!?そしてあっくんも捨てられた仔犬みたいな目はやめてください、罪悪感がはんぱないから!」

「……ほんとに悪いと思ってる?」

「うんうん、思ってるから!」

「じゃあお詫びにホールケーキね」

「なんでそうなる、―――わかった作ってくるから泣かないで!」

「じゃー俺は肉な、肉!」

「俺は一日蓮ちゃんとデートが良いっス!」

「い、一日俺と本屋に付き合うのだよ!」

「それなら俺は、三日間俺の専属になってもらおうか」

「……………え?ちょ、赤司く、専属ってなに、専属って?!」

「え、一週間が良いって?」

「言ってない言ってない!よろこんで三日間働かせていただきます!!」



そこでぱたん、と本を閉じた黒子くん。


「―――じゃあ僕は、一週間マジバに付き合ってください」

「…………黒子くんの裏切りものーーっ!!」






もうこの人達相手にくだらない嘘を吐くのは絶対やめよう。ごめん嘘でしたてへぺろ、なんて可愛く謝らせてはくれないから。むしろ土下座までしてもきっと許してくれなくて、お詫びを要求されるだけだから。














(これ考えたの、黒子の仕業かい?)

(…やっぱり赤司君にはバレましたか)

(まあ、お礼を言うよ。お陰で三日間楽しめそうだ)

(僕も、あんなに焦った赤司くんを見られるとは思ってませんでした。ところで赤司君、お昼のときの一言…本気でしたよね)

(おや、覗き見なんて悪趣味だな)

(赤司くんも気づいてたでしょう。というより、後から来たのは赤司くん達です)

(ま、可愛いと思ったのは本気だからな)

(…………今ごろ絶対後悔してるでしょうね)

(フッ、だろうね。性懲りもなくまた繰り返すのも可愛いところだ)

(夕凪さん、嘘を吐くとき毎回『実は』って使ってるの気づいてないですよね)

(言ってくれるなよ。きっと来年もこうなるんだ)















((来年こそは、平和な嘘を吐いてやる!))


 

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