短編
□空より深い青に染まる
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「…………………」
「…………………」
「…………………」
「おいっ!何か言えよ!」
そう言う彼の声すら、耳に入ったそばから抜けていくような感覚がした。
「……え、だって、……え?」
今の言葉は、なに?
今確かに耳に入って、脳にまで届いたはずの“音”は、一体何を、伝えたの?
「あ、お峰くん、もう一回」
「だああっ!ったく、もう一回しか言わねえぞっ!
……俺はお前が、好きだっつってんだよ!」
……青峰君が……私を……、好き?
「っ、!」
ようやく思考が再開して意味を理解した途端、身体が溶けそうなぐらい熱くなった。
「えっ、なっ、」
完璧に容量オーバーした私の頭は再び働くことを放棄して、口から出てくるのは全く意味をなさない音ばかり。
「ぶっ、何言ってんのかわかんねーよ」
そんな私を見て吹き出した彼はそう言うが、だけどこれは何もかもが突然すぎる彼のせいだ。
「……で、返事は?」
そんなこと訊かれたって、もう何が何だかわからないこんな頭では、イエスかノーかさえも考えられそうにない。
――――この気持ちが、好きっていうものなのかどうかはわからないけど、さっきの青峰君を見て今までにないぐらいワクワクして、どんなときよりもドキドキした。
今だってほら、彼が誰より、眩しく見える。
「…ねえ、青峰君。私、あなたの絵を描きたい!」
「……は?」
「好きだとかそんなのよくわからないけど、こんなに誰かの絵を描きたいと思ったの、初めてなの」
今はまだ名前も知らない感情だけど、絵が完成する頃には、その正体もわかる気がする。
だから………
「……はっ、上等だ。本物よりカッコ悪く描きやがったら承知しねーぞ!」
「しょ、精進します…」
「それから……、」
そこまで言って言葉を止めた彼を訝しげに見つめると、
「俺は手加減、しねーからな。惚れさせてやるから、覚悟しろ!よそ見なんてさせてやんねーよ」
そう言って不敵に笑った彼。
どきん、と胸が跳ねた。
―――やばい。
(この気持ちが何なのか、もうわかってしまったかも知れない)
手を伸ばせば届く距離にいる彼に
あのとき私を掴んだ頼り甲斐のある大きな手に
いつでも挑戦的に前を見据える瞳の強さに
―――――今まで空に憧れてた私が、今度は青に、惹かれてる。
空より深い青色は、圧倒的な存在感とともに眩しいぐらいの輝きを放って
その輝きに照らされて
(いつしか私も、青に染まるの)