短編

□空より深い青に染まる
2ページ/2ページ






「…………………」



「…………………」




「…………………」



「おいっ!何か言えよ!」




そう言う彼の声すら、耳に入ったそばから抜けていくような感覚がした。



「……え、だって、……え?」




今の言葉は、なに?


今確かに耳に入って、脳にまで届いたはずの“音”は、一体何を、伝えたの?




「あ、お峰くん、もう一回」


「だああっ!ったく、もう一回しか言わねえぞっ!




……俺はお前が、好きだっつってんだよ!」








……青峰君が……私を……、好き?



「っ、!」



ようやく思考が再開して意味を理解した途端、身体が溶けそうなぐらい熱くなった。


「えっ、なっ、」


完璧に容量オーバーした私の頭は再び働くことを放棄して、口から出てくるのは全く意味をなさない音ばかり。


「ぶっ、何言ってんのかわかんねーよ」


そんな私を見て吹き出した彼はそう言うが、だけどこれは何もかもが突然すぎる彼のせいだ。


「……で、返事は?」



そんなこと訊かれたって、もう何が何だかわからないこんな頭では、イエスかノーかさえも考えられそうにない。








――――この気持ちが、好きっていうものなのかどうかはわからないけど、さっきの青峰君を見て今までにないぐらいワクワクして、どんなときよりもドキドキした。



今だってほら、彼が誰より、眩しく見える。



「…ねえ、青峰君。私、あなたの絵を描きたい!」



「……は?」



「好きだとかそんなのよくわからないけど、こんなに誰かの絵を描きたいと思ったの、初めてなの」



今はまだ名前も知らない感情だけど、絵が完成する頃には、その正体もわかる気がする。


だから………



「……はっ、上等だ。本物よりカッコ悪く描きやがったら承知しねーぞ!」


「しょ、精進します…」

「それから……、」


そこまで言って言葉を止めた彼を訝しげに見つめると、


「俺は手加減、しねーからな。惚れさせてやるから、覚悟しろ!よそ見なんてさせてやんねーよ」


そう言って不敵に笑った彼。


どきん、と胸が跳ねた。



―――やばい。






(この気持ちが何なのか、もうわかってしまったかも知れない)












手を伸ばせば届く距離にいる彼に











あのとき私を掴んだ頼り甲斐のある大きな手に








いつでも挑戦的に前を見据える瞳の強さに












―――――今まで空に憧れてた私が、今度は青に、惹かれてる。










空より深い青色は、圧倒的な存在感とともに眩しいぐらいの輝きを放って













その輝きに照らされて








(いつしか私も、青に染まるの)


  
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ