長編番外編

□鈴蘭が咲くころに
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ケーキを食べながら、誕生日に始まり血液型や好きな食べ物などなどいろんなことを訊かれた。
(そんなのメモしてどうするんだろう)


「――じゃあ、好きなスポーツは?」


「うーん…バスケ…かな」


なんとなく、彼の真摯な瞳に嘘は吐けなかった。


「えっ、じゃあ部活入んないんスか?」

「…膝の怪我で、長い間のプレーはできないから」


苦笑してそう答える。

これも嘘じゃない。まあ、この理由が全てではないけど。


「そっスか…でも考えてみたら、蓮ちゃんが部活してたら生徒手帳拾ってもらうこともなく、知り合うこともなかったっスからね…不謹慎かもしれないけど、そういう意味ではラッキーだったっスよ」


――――びっくりした。


「ん、どうしたんスか?」

「いや、そんな考え方もあるんだなと思って。……でも、そっか」

言われてみれば、そうかもしれない。
彼は一応モデルさんで、私はいわば一般人だ。

「…怪我したお陰で黄瀬君に逢えたんだったら、それもなかなか悪くないね」

「っ、!!」


あの時は悲しかったことも、全てが今に繋がってる。

(悲しいだけじゃ、ないんだね)


「って、黄瀬君具合悪いの?!」


彼が口に手をあて俯いたまま動かない。


「ちょ、タンマ!だめ、蓮ちゃんこっち見ないで!!」

「は?ていうか黄瀬君顔赤っ!熱あるんじゃ、」

さっきまですごい元気だったのに。

「ちがっ、俺が勝手に照れてるだけっスから!」


……どこに照れる要素があったんだろう。


「てか黄瀬君こそ何か部活入らないの?あ、でも仕事が忙しいのか」

「…あー、まあ仕事は別にいいんスけど…」

「家庭の事情とか?」

「いやそれは全然。…でもなんていうか俺、基本的に何でもできちゃうんスよね、見ればわかるっていうか…。張り合いないんスよ」

おかげで夢中になれるようなものがみつからないんス、と苦笑した彼。

「……そっか」


人によって悩みも色々あるんだな。


「―――贅沢な悩みだって言われるかと思ったっス」


「んー、まあ確かに羨ましくはあるのかもしれないけど…そんなに悩むぐらいなら私は普通でいいや。世の中にはお金がありすぎて困ってる人もいるみたいだしね」

「あっ!それ動画の書き込みとかによくあるやつっスね!」

「ふふっ、そうそう、あれは正直鬱陶しいけど。…ま、でも悩みなんてそんなもんじゃない?悩み事の大半は他人になんて理解できないもんでしょ」


「っ、………そう、っスね。ははっ、俺もうやばいっス。―――こんなにハマりそうになるなんて思わなかった」

「うん?何が?」

「こっちの話っ!そろそろ帰ろっか」

「あ、じゃあ、」


そうして自分の分を払おうとすると彼に片手で制された。

「今日は生徒手帳のお礼っスから!」


訳もなく奢られるのはあんまり好きじゃない。だから断ろうとしたのにそう言われたら返す言葉がない。


(やられたわ)

彼にご馳走さまを伝えてから先に店を出た。


「おまたせっス」

「ううん、ホントにありがとう」

「もー、さっきからそれしか言ってないっスよ!あ、それならメアド教えてくださいっス」

「……えー」

「え、ちょ、あれ?仲良くなれたと思ったの俺だけ?!そんな嫌っスか?!」

「あははっ!嘘嘘、いーよ。ただ私の携帯発信専用だからよろしく」

「え、何スかそれ?」

「基本携帯見ないしめんどくさいから返信とかしない主義なの」

「えーーーっ!?携帯の意味!!嫌っス返信欲しいっス!!」


私の腕を掴んでぶんぶんと揺する彼。

「蓮ちゃーーんっ……」


……もうやだ、何で彼にしょぼんと垂れ下がった耳が見えるんだろう。


「…はあー。気が向いたらね」

そう言った瞬間、彼の周りがキラキラと輝いた。

「わかったっス!待ってるっス!!」


(返すとは言ってないんだけどな)







―――黄瀬君と過ごす放課後(彼曰くデート)は思ったより楽しかった。



「じゃあ黄瀬君、ここまででいいよ。私の家あそこのマンションだから」


「……蓮ちゃ、」
「……黄瀬く、」


彼と声が被って

「あ、先どうぞ」

と呼びかけに応じて隣に視線をすべらせると、甘やかな色気を含んだ瞳とかち合った。

「な、何?」


彼のこの視線、苦手だ。

わんこの目から突然"男の人"の瞳になられると、惹き付けられて、反らせない。





「…俺、蓮ちゃんのこと、好きっス」


「っ、……あの、」

「あ!返事はまだしないで!予想できるっスから」


慌てて遮られ、口を噤んだ。そのまま俯いた彼を見上げる。


「わかってるっスよ、自分でも。まだ俺蓮ちゃんにカッコ悪いところしか見せてないっスからね」


そう言って顔を上げ私を見つめた彼の瞳に、今はまだ小さな、でも確かな光が灯ったのを見た。

「俺、自分が熱くなれるもの見つけてみるっス。そんでもってもっと成長して、蓮ちゃんが俺から目を離せなくなるぐらいイイ男になるっス。そしたらまた改めてちゃんとプロポーズするから、その時まで考えてみて欲しいんスよ」


あまりに突然のことに声が出ない私は、まるで壊れたおもちゃのようにただコクコクと首を振ることしか出来ない。


「蓮ちゃん、顔真っ赤っスよ」


彼がしてやったりな顔で微笑む。
(い、イケメンなんて嫌いだっ!)


「またデート誘うっス!待っててください」


そうやって笑う彼に頷いて背を向けた。
(まだ赤い顔をこれ以上見せる訳にはいかない)




一日の結論。

『モデルの本気は恐い』











(あ、蓮ちゃーん!さっき言いかけてたことって何だったんスか?)

(あ、あれは―…その、ずっと言いたかったんだけど…言ってもいい?)

(も、もちろんっスよ!(どきどき))

(実は……)

(………(ごくり))

(靴箱にもたれてた時の埃が背中に付いてるよ)

(……っ、えーーーっ!?それは先言ってくださいっス!!)

(ごめん、なんか恥ずかしくて)

(恥ずかしがるとこ意味わかんないっスよっ!ずっと埃付けてた俺の方が確実に恥ずかしいっスよね!?)




















鈴蘭:『約束』
 


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