短編

□とびっきりの『今』を君に
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―――――ピピーーーーッ



「はーい、皆さん時間でーす。一年生は片付け、二・三年生の皆さんは各自ストレッチしてくださーい」



そうしていつも通りの終わりを迎えた本日、1月31日の部活。



「後は私がやっとくわ、皆部室戻っていいよ。…あ、赤司君!さっきのこと、お願いね」


「……しょうがない、他でもない蓮の頼みだからな。……ただし、この貸しは高くつくぞ」

「……私に返せる範囲でいつか返します」

そう言うと彼は、フッ、と少しだけ口許を緩めて部室へと歩き出した。


――これであっちは彼に任せて大丈夫だろう。


(あとは…さつきちゃんね)


「あ、蓮ちゃーん、ゴールは全部上げたよ!二階の方はもうオッケー!」

「ありがとー!私もこれしまったら終わりだから、先戻ってて」


言いながら急ぎ足でボール籠を片付け更衣室へ戻った。




「ねえ、蓮ちゃん、結局テツ君のプレゼント決まったの?」

「それなんだけど…昨日の晩さつきちゃんから誕生日のこと初めて聞いて、色々考えてはみたもののなかなか良いのが思い浮かばなくて…だから――――













――――って訳なんだけど、協力してくれる?」


「わっ、それすっごくいいね!もちろん!じゃあお母さんに、帰りは遅くなるって連絡しとく!」



良かった、さつきちゃんも大丈夫みたい。



「そうと決まれば早くいこ!みんな待ってると思うし」


「う、うん。ありがと、さつきちゃん」


「―――あ、テツくーーん!これ、あたしからのプレゼントだよ」


そう言って彼女は小包を抱えて黒子君の方へ走って行ってしまった。


「凪ちーん、頼みってなにー?」

相変わらずポテチトップスをばりばりと食べながら彼が訊く。

「え、赤司君から聞いてない?」

疑問に思って赤司君を見つめた。

「俺が頼まれたのは全員を連れてくることだけだからね。俺から伝えてもいいが…それも貸しに加えるよ」

「え、遠慮しときます!…これ以上貸し作っちゃったら返せる気がしないわ」


だってあの笑顔は危険だ。
今までの経験はだてじゃないんだからね。


そうしてみんなを見渡した。



赤司君、青峰君、あっ君、真ちゃん、さつきちゃんに……そして黒子君。


(よし、全員いる)


「あのね、今日、黒子君の誕生日でしょ。それ、私昨日知ったから"モノ"のプレゼントは用意できてないの。だから私からは、皆との"思い出"をプレゼントしたいんだけど…協力してくれないかな…」



「…それは、具体的にどうすればいいのだよ?」

「今から、少し付き合って欲しいの。帰りは少し遅くなっちゃうんたけど…」


赤司君には今日の朝話したから大丈夫だとして、他の皆は…


「ま、どーせ暇だしな。別にいーぜ」

「もちろん私も大丈夫!」

「凪ちんの頼みなら行ってあげてもいーよ」

「…特に用事はないのだよ」


―――――後は…


「僕も大丈夫です」


(っ、良かった)


ほっと肩を撫で下ろす。これで肝心の黒子君が行けなかったら意味がない。


「じゃあみんな、着いてきて」





















「…なあ夕凪、思い出って、…ゲーセン…か?」


「うん。まあ、正しく言えばこの奥のプリクラなんだけど」


「俺、とったことないしー」

「俺もねーぞ」

「俺もなのだよ」

「僕もありません」


――皆の視線が、ある一人に集まる。


「……俺には必要の無いものだ」


それを聞いて、全員が密かに安堵のため息をついた。


赤司君が撮ったことあったら、逆に怖いでしょ。


「でも実は、私も初めてなんだよねー」

「え、そうなの!?」

「だって今までずっとバスケ三昧だったもの」


……ちょっと、皆して、そういえばこいつバスケ馬鹿だったな、みたいな顔しないでよ。


「だから機種だか何だかはさつきちゃんにお願いしてもいい?」

「オッケー、まかせて!」





「蓮ちゃん!これ画像赤外線で送れるやつだから、これにしよ」


もうさつきちゃんが日本語喋ってるのかどうかもわからないぐらい意味不明な言葉ばっかりだったけど、取り敢えず性能がいいみたいだ。

うなずいて中に入った。





「………これ、狭すぎんだろ」

「天井低すぎだしー」

「うるさいのだよ、余計暑くなるのだよ」

「みんなもうちょっと寄ってください」

「…………」



………まあ、こうなるよね。170センチ以上が三人もいる時点で、何となくこうなる気はしてた。

しかも彼ら三人は、まだまだ成長期が終わる兆しを見せない。
(三年になる頃にはどんな規格外サイズになってることか)

あとの二人に、目を移す。

……うん。彼らは、安心してもいいかな。

「――蓮。今考えたこと、二度目はないぞ。」


ひいっ!なんで!?何で考えてることがわかったの?恐すぎるんですけどーーっ!!

「……はあ。夕凪さん、分かりやす過ぎます」


……気をつけよう。


「あ、さつきちゃん!お金は私が出すからね!」

そう言って彼女に400円を渡す。

ありがとー、なんて言いながら彼女は真剣に画面を見つめていた。

(美白…?なんだそれ)

画面を見てもちんぷんかんぷんなので諦めて皆の方に戻る。


「…でも夕凪さん、本当に撮ったことないんですか?意外です」

「意外…かなあ?でも本当。だから今日は、私の初めて、黒子君にあげる」

そう笑って彼に告げると、一瞬にして、周りの空気が凍った。


「え、な、なに?皆どうかした?」


「ま、まどろっこしい言い方はやめるのだよ!」

「ほんとだしー。凪ちんの初めては俺がもらうんだしー」

「ちょ、あっくん!寄りかからないで、重いってば!しかもお菓子のかす落とさないでーっ!青峰くんヘルプっ!」

「…今のはお前がわりーから、パス」

「…………」

なんか赤司君まで怒ってるし!

黒子君は何故か赤くなってるし…

「よ、よくわかんないけど、どうせ皆一緒なんだし、いいじゃん?」

「っ、もう、しゃべんじゃねーよお前!」

なんて最後に青峰君に一喝されたとき、さつきちゃんが帰ってきた。

「みんな、すぐ撮るからポーズとって!」


―――3、2、1



パシャ。





「……ちょ、みんな、証明写真じゃないんだから、笑って!蓮ちゃんもほら!」


わ、笑うのか。

「う、うん、わかった」





―――3、2、1



パシャ。






「………っ、ぶはっ!」



「ちょ、これ、ダメっ!見ないでー!!」


必死に画面を隠す私。


手で隠した向こう側に見えるのは、口許はちゃんと笑った、私。


そうだ、それはいい。

さっきさつきちゃんに言われたから、笑ってみようとしたんだ。

だけどシャッターを切る瞬間、パッと光ったフラッシュに油断してた私は見事に目を瞑ってしまった。

……いや、うん、完全に閉じてたならね、それはそれでよかったのに…

もう一度、画面の中の自分を確認する。



――――ちらり。




………やっぱだめ!こんなの公開禁止!



そこに写るのは、瞬きの瞬間、驚く程綺麗に捉えた、私の白目。



…………ほ、ホラーでしかないでしょ、これ。



白目むいてるのに口だけ笑ってるとか…。






――――パシャ。



(……え、)



「えーーっ、今のやつ、黒ちんと凪ちんしか写ってないし」



落ち込み過ぎて、まさか撮られるなんて思わなかった私はカメラに近づき過ぎてて、写真の大部分を占めちゃってる。そして残りの4分の1ぐらい、申し訳程度に私の隙間に写った、黒子君。



「だああっ、腹いてーっ!お前さっきからどんだけやらかしてんだよ!」


大爆笑する、青峰君。


わ、私だって好きでやらかしてる訳じゃ…、


「どうでもいいが、早く退かないとまた繰り返すぞ」


はっ!そうだった。赤司君に言われて慌ててカメラと距離をとる。





――――3、2、1




パシャ。




よし。今度こそうまくいった!






「…………って、あっくん!」



「っ、ぶっ!ははっ!も、まじで我慢できねー!」


「ちょっと待ってよ!これは私のせいじゃないわよ!真ちゃんも、口許緩んでるのバレバレだからね!」


さっきの写真、今までで一番良かったと思う。

思うのに、私の上でお菓子を貪る誰かのせいで、いつのまにか私の上にお菓子のかすがこんもりと積もってた。


「いい加減にせんかーいっ!あっくん、撮ってる間はお菓子禁止っ!」



どれだけ激しくこぼしてるのよ!逆にちゃんと口に入ってるかを心配しちゃうわよ!



―――これでラストだよ、とびっきりの笑顔で、




そう機械から声がしたとき、



「夕凪さん、目を瞑ってこっち向いててください」


そんな声が聴こえて、どういうことか考えようとしたけど



―――3、2、1




機械の音に急かされて、慌てて目を閉じ横を向いた。




パシャ。





「っ、あー!これ、蓮ちゃんとテツ君、」

そこまで言って言葉を濁したさつきちゃんの声につられて画面を見ると、


「っ、これ!ち、ちがうから!ちがうからね、皆!」


そこには横を向いて、あたかもテツ君の頬にキスをしているように見える私が写っていた。



その後も、何も悪くないはずの私が無言を貫きつつも圧力をかけてくる赤司君に謝り倒し、何故か不機嫌の極みに達したあっくんに今度お菓子を作ってくる約束をさせられ、くたくたになって戻ってきたころには、"落書き"なるものは全てさつきちゃんの手によって完成されていた。
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