茨の涙

□二章 英霊
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千年も昔の話、この国にはまだ能力なんてものはなかった。
人間たちは理想を語っていたし、いつか簡単に空を飛ぶ時代がくるだろうと数々の実験をしていた。だが、能力発動ばかりか、一欠けらの奇跡さえ起こらなかった。
でも決して人間たちはあきらめはしなかった。
そんななかとんでもない災害が起こった、非常に高い熱量を持った波動が天から降ってきたというものだ。
優に国の半分をなくしてしまうほどの物で、人々は国を捨てようとしていた。だが、それは一瞬にして消えたという。
のちに調べると、目に見えない大きな壁が国を守ったと結論が出た。
間違っているのではない。結界、バリアといわれるもので、外から降ってきたものを国が守られる形で防がれた。そこに人間たちは論点をおいた。
国を破壊されては困る、だから防いだ。つまり国の中にあれを張った人間、もしくは未知の生き物がいると。
血眼になって探した。そして初代人王と呼ばれた人は見つかり、人々に力を貸した。

「春の代わりではないと曳士が言った。お前にはお前の名があるだろう?」
爛の部屋で神那と共に曳士の父が拾ってきたという男の名を聞いている。
「浅葱といいます・・・」
ちゃんとした名前があるのに、拾った時がどういう状況であれ、あの曳士の父は聞かなかったとみえる。
「いい名だ、あんな扱いをされてここまで来たんだ、疲れただろう?俺は疲れた」
ただ黙ったまま下を向き、浅葱は何も言わなかった。
どんなことをしてきてここまできたのか、手にとってわかるような雰囲気だった。おそらくは金欲しさ、あの男に泣いてすがったのだろう。
「今気付いた・・・男だったんだ・・・」
それが浅葱の天然なのか本音なのか、爛にはどうでもよかった。
思わず笑った、すぐわかりそうなものなのに。
「神那だって言わなかったのにな、あー笑った」
あまりにも綺麗だから、爛に誰もが持つ印象であろう。
浅葱はそれを正直に言ったまでだった。
「あの・・・」
「何だ?ああ、自己紹介が遅れたな。俺は爛でこっちが神那、仲良くしような」
「爛さん、その・・・人王って本当ですか?」
神那の勇気ある発言、もはやこの国に住む人に人王を知らない人などいない。そして現代に転生しているという人王の存在、有名なだけに知りたいと思ってしまうのだ。
「今度そのこと言ったらお空のお星様にしちゃおうかな」
浅葱も聞いていただけにこの部屋の温度が一気に氷点下に下がった感じがした。
爛も笑顔だけにとても怖い。
「すいません、もう言いません」
「嘘だ、そろそろ自分でも認めた方がいいかもと思っていたんだ」
「じゃあ、本当に人王?」
「さすがにこの話にはみんな興味を示すんだな。人王の証明というか条件は三つある、気付いたのは五歳の時だった」
初代の時から続く人王の条件。
もし自分が人王かもしれないとか、歴史の勉強のためだとか言われているが、必ず一生に一度聞くはずのこと。
親から子へ伝えられること。
「一つ、絶大な通常能力の制御をする無限に近いキャパシティーだ」
「何ですか、そのキャパシティーって?」
「能力の許容量って聞いたことがある」
「よく知ってるな、浅葱。その通り」
許容量とは、いくら人が能力を持ったところで限界がある。
能力者には、精神の奥に能力の限界を示す箱が存在する。その中身が能力の容量だとすると、箱の外殻が能力をどれくらいまでしまっておけるかという限界、すなわち許容量である。
普通の能力者には限界があって当然なのだが、人王にはないという噂。
「二つ、確か全部で七十二の英霊を所持していること。俺の中には七十しかいないがな」
英霊とは人王が使役してきた神に近い力を持った者たちである。一種の召喚獣に近い者。
「三つ、三人の使いが人王にはいるはずなんだが俺にはいないから違うんだなと思っていたんだが・・・」
人王には三人の使い、つまりは下僕なのだが、少し美化した言葉を使ったにすぎない。
「力からしてレベルが違いますよ」
「人王って不老だと聞きましたけど」
「は?」
浅葱の言葉に知らないとばかりに爛は凍りついた。
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