茨の涙

□三章 神那
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その人の役に立ちたい、ただそれだけだった。
はっきり言って爛さんに振り回されるのは嫌いじゃない、今まで生きてきた中で一番自分が生きてるんだなと感じられるいくつかの瞬間があるからだろうか。
損得なんてどうでもよかった。
「決めた、私は当分ここにいるからな、王」
部屋に二人きりの寂しい午前。
浅葱は曳士の手伝い、神那は英霊を入れるための準備のため朝風呂に行っている。
「どうして?」
「私を呼ぶ前の王のピンチの時、あの時の結界は本当に本気だったのか?」
「さぁ?どうだろう」
「ぜんぜん本気じゃなかったよ、だからずっといる」
「死ぬまでかよ」
「王は不老だぞ」
「そうだ、それ聞きたかったんだ。俺聞いてないぞ、不老なんて」
「王が知らないだけだよ、不死じゃないけど不老」
「両方困る!みんなが老いていく中俺だけ若いまんまかよ」
「うん」
あっさり肯定されてしまった。
人王と言われるからには寿命で死ぬなんて許されない。
「一人になるわけじゃないよ、そのためにも私たちはいるんだよ」
「もうこの年で止まってるんだよな?」
「そうだよ」
爛は思わずため息を出してしまった。
自分が死なないなんて急にいわれても困る。
「あの、風呂入ってきました」
神那が風呂に入ってきたらしく、頭にタオルをかぶったまま部屋に入ってきた。
「準備は完了している、システムコントロール室の許可も取ってあるから行くぞ」
システムコントロール室とは建物にあるいろいろなシステムを管理する部屋で、各部屋のバリア、結界の強度や災害の消火などのシステムはすべてそこで管理されている。
「一つ部屋を貸し切りにしてある。その部屋のすべてのシステムを全開にし、神那には約三日そこで過ごしてもらう」
「三日って何も食べずにですか?」
「食べたくなくなると思うぞ。普通の人間が英霊を一人でも自分のキャパに入れれば死を招くがお前は違う」
「本来は王にしか存在しないはずの無限に近いキャパシティがあるのだよ、神那には」
「初めて検査した時キャパの広さを見なかった俺のせいでもあるが、少しだけお前にも力があったんだ。ほんとに欠片だがな」
「いずれ、目覚めるとふんでいた王の誤算だよ。あれは小さいけど英霊みたいな大きな力を入れれば目覚める、しかも失われた力なんだよ」
遥か昔にあったはずの力、今では新種とされ、数々の組織が調べている。
「無事に帰ってきたら教えてやるよ、失われた力の正体を」
三日間過ごすために用意された部屋の目の前に着いた。
大きな部屋で、その階の半分をその部屋で占領しているといっても過言じゃない。
「入って」
そこには何もなかった。広いだけの空間、頑丈な壁。
「ぜったい関係者以外の者に知られてはいけない、無事に終わることを祈るしか俺たちにはできない」
「ここのシステムだけでは不安が残るから私たちが結界を張るが・・・健闘を祈るよ」
爛とレライエは自分たちの力の限りに結果を張った。
「早くて三日間は今までに味わったことのない凄まじい激痛に襲われる」
「王ではないからな」
「覚悟はしています」
神那が目を閉じた。
「神々の頂点に君臨せし、我が身に宿る英霊よ、その姿我の前にさらせ、召喚アンドロマリウス」
神のように容赦なく、王のために尽くす英霊。
何がそうさせるのか本人にもわからないと昔言っていた。
ただ、その方が好きなのだと。
「久しいな、爛よ」
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