茨の涙

□七章 螺旋の檻
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深い意識の中、誰かが呼ぶ声が聞こえる・・・・・・
「“爛・・・・・・”」
誰だったか、聞いたこともないのになぜか懐かしい感じがする。
もし前世というものがあったなら自分が何だったのか気になってしまう。
もしかしたら自分が最初の人かもしれないのに。
人の記憶とは何て曖昧で不確かなものだろう、現実でどうなっているかわからないが、また瞳が熱かった。
「爛さん!」
目を覚ますとそこには自分の顔を心配そうに覗き込んでいる神那の顔があった。
爛は自分の手が目を押さえていることに気付く。
「うなされてた?」
「いえ、ただずっと目を押さえてただけですけど。誰かに見てもらったほうがいいんじゃないですか?」
一つの階を丸っきり占領している四凱将の各部屋。
その中でも頭の部屋は特別で、家具や食器の素材が違う。
仕官と部屋が共同のため、大きなベッドが二つある寝室で二人の朝が始まる。仕官である神那が爛を起こすのも日課の一つだ。
「病気じゃないんだ、その必要はない」
「でも・・・・・・」
神那が目元に触れ、瞳を見つめる。
「そんなに見るな。わかったよ、今度倒れたら徹底的に調べてもらうから」
「倒れてからじゃ遅いんですよ。熱さを感じたらにしてください」
「はいはい、さぁ朝飯にしようか」
朝は神那の作ったご飯を食べる、そして服を着替えて、いろいろと身支度し出勤、といってもすぐそこの会議室なのだが。
「今日の任務の割り振りは以上です、解散」
爛と神那が前日に曳士に日によって数の違う任務の書かれた紙をもらい、それぞれの特質にあわせて割り振る。
「爛さん、目のこと聞いたけどだいじょうぶですか?」
会議終了後、心配になったのか浅葱と葵一が目のことを聞きに来た。
「無理はしちゃいけないよ、曳士も心配していたから」
「ありがとう、でも本当にだいじょうぶだからさ」
「僕達も任務があるからなかなか居合わせないけど、何かあったら遠慮しないで声かけて」
そう言って二人は任務に取り掛かるため、外へ出て行った。
爛の任務は神那が調整をしたためか、午後からということで昼まで休める。
「あっ、爛さん、今日のシフト表をまわしてきますからここにいてくださいね」
神那がすっかり忘れていたと言わんばかりに走って事務室まで行ってしまった。
残ったのは、爛と蓮華の二人。
どうやら蓮華は遠い所に仕事に行くようで、仕官に車をまわして来るように言ったのでここで待っているのだ。
「ねぇ爛、ちょうどいいわ、言っておきたいことがあるの」
「何だ?」
出会ってからこの二人はあまり話らしい話はしていない。
別に驚くことではないが、蓮華の挑戦的な言葉に爛も興味が湧く。
「ここ数日の神那の能力値って異常なほどに上がってるのよね、あなたが何かしたんじゃないのかしら?」
「別に、あいつが望んだことだ。それに力なんて成長期に入っていればすぐに上がるものだろう」
嘘はついていない、自分がやったともいってないからうまい逃れ方だと思ったが、蓮華の狙いはそこではなかった。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、秘密がありそうだから聞いてみただけ。ねぇ爛、私、強い人がとても好きよ」
「何が言いたい?」
「とても欲しいものができたのよ」
言っていることがよくわからないといった顔で爛は蓮華を睨みつけた。
「神那が欲しいのよ。あの子を拾ってきたのは爛でしょう、保護者ですもの、許可が必要かと思ったのよ」
ほんの気まぐれで拾った、そう言ったら神那は怒ってしまうだろうか?
神那はなぜ自分を拾ってきたのか聞こうとしない。
「だめだって言ったらどうするんだ?」
「言ってみただけよ、あなたがいいと言えば堂々とできただけ。恋愛は個人の自由、もともとあなたが保護者だからといって神那を束縛できる権利はないわ」
そのとおりだ、思わず爛は心の中でそう言ってしまった。
「でも、あいつはお前と恋愛しようなんて思わないだろうな」
「何でよ?」
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