オリジナル小説

□Heaven and Earth 第七章
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Heaven and Earth
第七章 赤と予感

 『ミルレオン』の惨劇から三日後。時間的にはあまり時が経過したようには思えない。それはやはりある程度『ルナグローシア』が平和な証だ。
 いつもどおりの仕事といえばそうで、禁域の執務室で書類整理をしている暁の下に白夜が朗報を伝えに来た。もちろん、暁の姿は子供だ。
「そうか、『ミルレオン』は生き永らえたか……」
「はい。今は復興に手一杯という状況ですが、暴走種がやってくる心配はないようです」
「よかった。無駄にならなかったな」
 暁は『ミルレオン』に侵入してきた暴走種を始末するため、血を提供した。
 暁だけではなく、怜音も血を提供したので、かなり貴重なものなので、願うことなら、無駄なことにはなってほしくなかったのだ。
「龍さん、シュヴァリエにしたいと思ってたんじゃないんですか?」
 白夜は何となく気になっていたようで、ホッとした様子の暁に聞いた。
 その話には興味があったのか、暁のいるデスクから少し離れたところで作業をしていた織羽と綺羅が手を止めて、彼女を見つめる。
 暁がシュヴァリエにしたいと口走ったわけではないが、身内に引き込んでもいいくらいの力と頭はあったように思う。
「白夜、私がシュヴァリエにしたいと思う大前提は?」
「あなたを好きであること…ですか」
「そう。確かに魅力的ではあるんだが、私を想う気持ちが欲しかったな…それがあれば、四人目が埋まったのに、惜しかったな、織羽」
 白夜に目を合わせて話していた暁はふいに織羽のほうを見て、微笑みかける。
 四人目のシュヴァリエをと、一番望んでいるのは織羽なのだ。
「難しいですね。あなたの目に適わない者でしたら、私もシュヴァリエとして認めるわけにはいきません。早々にみつけたいのですが……」
 織羽の目の前に座っている綺羅も同意見で、憂いている彼と目が合うとため息をついた。
 暁を守るシュヴァリエが多いにこしたことはない。だが、あまり多すぎてもいけないのだ。それは本人達が一番よくわかっていること。いくら白夜が本命とはいえ、織羽も綺羅も暁に頬や額までのキスなら許されているし、デートしたりもする。シュヴァリエが多くなるということは暁をその人数分共有しなければならない。多くなるほどシュヴァリエも煮え切らない想いを抱くし、暁も大変なのだ。
国としては四人と決めているのだが、場合によっては人数が増えるかもしれないということは言ってある。
 暁はゆっくり探せばいいと思っているが、シュヴァリエ三人はすぐにでも欲しいくらいだ。当分のシュヴァリエ達の目標は四人目をみつけることだった。

 シュヴァリエは睡眠をとる必要がない。昼夜関係なく活動できるのだが、暁はそうはいかない。シュヴァリエが睡眠をとる必要がないというのも、純血種を一時も目を離さず守るためかもしれないと白夜は最近思うようになった。
 ヴァンパイアの血が濃いからか、暁は夜が好きだ。昼に歩き回ったりも出来るのだが、夜のほうが好き勝手出来るので、もっぱら外出は夜が多い。
 そして今も、暴走種が多く出現しているという、首都から遠く離れた『ルナリア』という国境沿いの町に来ている。都の二分の一という町だが、それでも活気はあっていい町なのだ。一晩で住民が五人殺された。報告を受けた暁はまず禁軍を派遣し、その日の夜、シュヴァリエを伴って『ルナリア』へとやってきたのだ。
 暴走種の活動時刻ももっぱら夜で、人々が寝静まる時間が特に多い。
 暁達は町の中央にある古い時計塔を拠点に見回りをしていた。
「織羽様!! 西側噴水前に暴走種が一体現れました!」
 暁と白夜を拠点に残し、織羽と綺羅が見回りを終えて、時刻は十一時半、四人の下に兵士が二人やってきて、暴走種の出現を知らせた。
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