茨の涙

□六章 罪と罰
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レライエがこんなことで嘘を言っても何の得にもならないことがわかっている曳士は疑いなく聞いた。
「このことは王の意思なのだ、王の意思を無視した行動はしていない。王が殺して欲しいと言ったのだ」
「どういうことですか?」
「言ったとおりの意味だ。王に初めて会ったのは、まだ王が五歳にも満たないころだった」
あまりに無邪気に笑うその綺麗な顔が忘れられなかった。
初めて英霊を呼んだそうで、遊び相手になってほしいと言われたから王の望むまでそばにい続けた。
「英霊をあの年で呼ぶのは異例だったのだ。私は子供に免疫がなくて戸惑ったが、ただそばにいて話をしてくれるだけでいいと言ったから、親にばれないように王は私と遊び続けた」
どうしてレライエを呼べたのか、いろいろなことを聞かせた。
いっしょに過ごすうちに知った、あの親は虐待をしていたのだ。
「許せなかった、何もしていない王に顔が気に入らないからと虐待を繰り返していたあの親が」
「どうして顔なんだい?葵一は目だった。綺麗すぎて嫌だったのかわからないが・・・・・・」
「綺麗すぎた、それが原因だよ。王の親はどっちかといえば普通の顔の人たち、そんな親からあんなに綺麗な顔を持った王が生まれてこれば周りの人たちが何かしら騒ぎ出すから」
そしてしまいには自分達まで疑いだす、本当に自分達の子供かと。
「そんなことで、虐待なんかひどい・・・・・・」
「そして王は真っ向から言われる、私たちの子供じゃないと」
衝撃を受けた爛はその親の家に二度と戻らなかった。
「初めての英霊に対する命令、“僕をここから連れ出して”」
その時爛は泣いていたそうだ、それからレライエは親に見つからないように爛を連れ出す。
「それで?」
「三日後、さすがに心配になった親が捜しにきて、たまたま木の上で野宿をしていた私たちを見つけたんだ。帰っておいでと」
当然レライエも見つかるが、親には友達に見えていたのだろう、何も咎めはしなかった。
「“帰っておいで”、それは建前だけの言い方だった。そこに王は嫌気がさしたんだ。そして、“殺して・・・・・・”と無情な瞳で言った」
今ではすっかり消えている爛の虐待の痕。
当時は酷かったそうだ、虐待のしかたも、その後の傷も。
時には血が流れることも。
「私は望むように殺った。王の苦しみが少しでも和らぐならと、ほかの英霊なら止めるだろうね、親だからという理由で」
親を殺すことで逆に苦しみを増やしてしまうのではないか、普通の英霊はそこまで考える。
「やっぱり君はほかの英霊とは違うね、何か狂ったように爛に尽くしている感じだ」
「そうだね、王が望むなら私は何だってするよ」
狂気の宿る瞳、今までとは明らかに違うレライエだった。
外見だけを見ていて中身がまるっきり見えてなかったことに今更曳士と神那は気付く。
「王の言葉が私のすべてだ、悪いが私にはもう時間がないんだ、王と二人にさせてくれないか」
「わかった、用が済んだら呼んでくれ」
曳士はなかなか爛のそばから離れない神那の心配をよそに、無理やり立たせ、背中を押して強引に部屋を出て行かせた。
「お前達にはわからないよ、初めて知ったんだ、自分にもこんな想いがあったなんてこと」
英霊が全部で七十二なのは偶然である。
初代から減ったり、増えたりしたわけではない。
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