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□ひと肌が恋しい夜は、
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すっかり秋も深まった10月中旬。
ついさっき、この学園の大きなイベントの一つ”文化祭”も大成功の内に終了した。
俺も、柄にもなく本気なんかになっちゃって、10月に入ってからは毎晩遅くまで作業に没頭していて、ロクに睡眠も摂ってはいなかった。

気分が高揚して、興奮でもしていたのだろうか?睡眠不足なハズなのに体は睡眠よりも作業を求めた。アイディアが次々に溢れ出してきて、それを早く形にしたくてたまらない。
そうやって色々なアイディアを、多少の無理を乗り越えてまで形にしていったからこそ、今日の俺があるのだけれど。
でも、身体はとっくの昔に限界を迎えていたらしい。

後夜祭では、ほんの一瞬だけど恋人の真斗とステップを踏んで踊ったり、散々おチビちゃんをからかったり、イッチーとは普段はしないような話で盛り上がったり。

色んな意味で文化祭自体をやりつくしたな、と最後の打ち上げ花火を見終わった瞬間急に眠気とだるさが襲ってきた。もう俺も若くないのかな、だなんて一人苦笑いしながらすっかり気怠くなった体を引き摺って、寮へと戻るのだった。


「ふぅ…」


いつもはシャワーで済ませる風呂も、今日はしっかりと湯船に肩まで浸かって疲れを癒す。風呂に入れば少しは目が冴えるかとも思ったが、それでも瞼は重たいままだった。


「あー……ダメだ、眠い…」


このままでは湯船で眠り兼ねないと思い、軽く頬を叩き、足早に浴室を後にした。


「…ふはっ…よく寝てる」


身体を拭いて部屋着に着替えたあと、足音をなるべく立てないようにして先に風呂に入り終わって眠っている真斗の布団に近付いてみた。

真斗も結構文化祭に根を詰めていたのは、俺が誰よりも知っている。まだお互い寝るような時間でもないのに、熟睡している真斗。やはりこのところの睡眠不足が祟ったのだろう。目元には薄っすらクマが出来ていた。

それでも綺麗な顔立ちで、規則正しく寝息を立てている真斗を見て浮かぶのは、先程の後夜祭での出来事で。


『ほら、顔を上げて?真斗の顔が見えない』
『うるさいッ…!貴様、それ以上馬鹿みたいな言葉を発してみろ…足を踏みつけてやるぞ』
『全く、可愛くないなぁ〜』


ボスが、誰とでも好きに踊っちゃって下ッサ〜イ!だなんて言うから、真っ先に真斗の手を取ってしまった。だが、真斗は俺がからかいすぎたこともあって最後まで抵抗していた。きっとお世辞にも上品な社交ダンスとは言えなかっただろう。

それでも、時間にしたらほんの一瞬だったのだろうけど、真斗が耳まで真っ赤にして踊ってくれた。それがたまらなく嬉しくて、思わずみんなの前で抱きしめてしまいそうなくらい愛おしかった。


「…おやすみ、真斗」


昔から変わらない、その痛んでないサラサラで綺麗な青い髪を一撫でしてから、自分のベッドに入る。
今日は真斗の夢を見れたらいいな、なんて想いながら――。

* * *

「……ン……?…レン…」
「ん……ぁ…?」


強い揺さ振りで目が覚めた。
ジョージか?まだ朝じゃないだろ?と文句を言ってやろうと一旦目を擦る。すると目の前にいるのは、先程まであんなにも穏やかに寝息を立てていた真斗だった。

今俺の目に映る真斗は、今にも泣きそうな顔をしていて、でも遠慮がちに目を伏せていた。
そこで漸く、真斗に起こされたのだと気付いた。


「……」
「どうした…?…真斗?」


唇を噛み締めて、何かに必死に耐えるような表情をする真斗。


「……すまない、起こしてしまって……」


口を小さく動かして、何とか聞き取れるような蚊のなく声でそう言った。
こんな真斗を見るのは本当に初めてで、少し戸惑う。俺は夢を見ているんじゃないのかって。
いつもの凛とした声からは想像もできないような弱々しい声、表情。


「…真斗」


とりあえず、引き寄せて抱きしめてみようと手を伸ばすと、あっけないくらい簡単にそれは叶った。いつもなら、やれ暑苦しいだのと、理由を付けて拒むのに。

大人しく抱きしめられる真斗は、俺の服の裾を遠慮がちに掴む。心なしか少し身体は震えていた。よほどの何かがあったのだろうか。


「…怖い夢でも見た?」
「…ッ…!」


心当たりがあるとしたらその位だった。優しく問いかけてみると、肩をビクつかせてまた唇を噛み締め、俯く真斗。


「そっか……大丈夫、今日は疲れちゃったんだよ」
「……」


すっかり逞しくなった真斗の背中をゆっくりと撫でた後、抱きしめる力を少し緩めて視線を合わせてみる。すると、潤んだ真斗の瞳と視線が合った。

そんな真斗を何とか安心させてあげたくて、思わず


「あー…そうだ!じゃあ、今日は一緒に寝る?勿論、俺のベッドで」


いつもならここで、貴様っ、ふざけるな!と怒られて、殴られるところ。
きっとこれで、真斗も少しは気持ちも切り替えられるはず、だと思っていたのも束の間


「…ッ……」
「えっ…」


真斗は俯いて、俺の服の裾を更に力強く握った。目の錯覚でなければ、その耳は先程一緒に踊った時よりも赤くなっていて。



「……じゃあ、おいで?」
「うぁっ…」


そんな可愛い真斗を見てしまったらもう、頭より先に身体が動いてしまうのは仕方ないという事だと思う。

ゆっくりと自分のベッドに真斗を引き込んで、向かい合うようにして抱き合った。最初は恥ずかしいのか、ずっと俯いていた真斗も、何度も頭を撫でるとおずおずと視線を上げてくれた。


「何だか昔を思い出すなぁ。よく小さいころは一緒に寝たよな?」
「…お前は寝相が悪くて、蹴られる度に起こされたがな」
「可愛いもんだろ、それくらい。」


お互いのぬくもりを分け合うように、狭いベッドの上で体を寄せ合いながら他愛もない昔話をいくつかして、小さく笑って。
身体は疲れているはずだというのに、こんな些細なことで堪らなく心は満たされた。


「……ふぁっ…」


そんなことをしていたら、不意に小さく欠伸をする真斗。先程から何度か欠伸をかみ殺す仕草をしていたが、段々と心地よい睡魔が真斗の元へと訪れているようだ。


「眠い?」
「……ん…」


俺の問いかけに小さく頷くいてから、目を擦る。当然だ、今日は普段よりもずっと疲れている状態なのだから、睡眠を求めるのは自然なこと。
どうやら今回は穏やかな睡眠が摂れそうだな、真斗の眠そうな表情を見て、そう確信する。


「じゃあ明かり消すよ?」


サイドボードで小さく光るそれを消してから、再び温いベッドに入り込む。真斗を優しく抱きしめて背中を撫でながら、真斗が夢に落ちるまでを見守る。それを確認してから自分も目を閉じようと思っていた。
すると


「……レ…ン」
「?」
「……す……きぃ……」
「!?」


さらっとそんな可愛い爆弾を落としていった後、真斗は規則正しい寝息を立てて夢の世界へと落ちて行った。


「…くっそ……」


普段ツンツンしている分、こうゆう不意打ちが見事にドツボにはまってしまって、本当に憎たらしく感じる。でも、どこか嬉しいと感じる自分が一番憎たらしい。



「…これくらい、罰当たらないよな…?」


せめてもの仕返しにと、唇にそっと口づけてやった。


「おやすみ。…良い夢を……」


そしてゆっくりと目を閉じたのだった――。


朝起きたら、沢山の愛してると、おはようの口付けを、貴方に――。


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