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□ある日のお話 (完結)
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「わりぃ…。」

俺はそういって、助けられなかったこいつに謝った。

目の前の台の上に乗った力の抜けた子猫。

事は数時間前に遡る。


俺は、仕事に行くいつもの道に、倒れているこいつを見つけた。

近寄って、弱っていることに気づいた俺は、近くの動物病院に駆け込んだ。

食いもんも食べてねェらしく、極限にまで痩せ細ったこいつは、自ら食いもんを食べる事が出来なかった。

生まれてから日が浅いだろう、手のひらに乗ってしまうほど小さな体。


「…っ!生きてくれ!!」


獣医の治療の隣で、俺は叫んだ。

しかし…


そして、事態は始めに戻る。


「…パウリー君は、悪くないよ。」

獣医のじいさんが口を開いた。

「…それでも、こいつには申し訳ねェ。」

俺は、布に包まれた子猫を見た。



俺はこいつを埋葬してやることにした。

そんな形式ばった事は出来ねェが、自宅の庭にでも埋めてやるくらいは。

…俺にできることなら。

そんなことを思いながら、俺は穴を掘り進めた。


「…こんなもんか。」

出来上がった穴を見て、俺は立ち上がった。

次はこいつを入れる。

だが、その前に…こいつの顔を見ておきたかった。

体は更に固く、冷たくなっていた。

…こんな可愛いのに。

…俺より生きてねェのに。

こうして、簡単に小さな命がなくなってしまうことにやるせない思いを持った。



「…助けてやれなくて、…っ…ごめんな…!」

これから、生きようとしていたこいつはどんな気持ちだっただろう。

一匹で…寂しかっただろうに。

子猫に謝った瞬間、涙が出てきてしまって…。

袖口で涙をぬぐいながら、こいつを埋めてやった。
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