NOVEL
□りとるぼーい
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きっと誰かに話しても、信じてもらえないだろうから、両親にすら言ったことのない話がある。
ーー僕は生まれる前からずっと、恋い焦がれ、探している女の子がいる、…ということだ。
ずっとずっと昔…。
今の僕が生まれる前の僕。
多分、皆…“前世”って言うと思う。
その子は、前世での僕が…
愛し…
絶対に護ると決めた、大切な女の子だ。
……………
「はいカットー!」
「…(やっと終わった)」
眩しいくらいの照明が当てられている場所の中心に、僕…沖田総司はいた。
何故そんな場所にいるのかと問われれば、答えは簡単。
現世での僕はまだ7歳の子供で、子役タレントをやっている。
一応人気はあるみたいで、学校にはろくに行けず常に仕事ばっかり。
勉強は主に仕事の合間にやって、週に一度…週末に取れる半日の休みの時に、親がどうしてもと言うから、仕方なく家庭教師を事務所に呼んで勉強を見てもらうのが僕の今の日常だ。
「総司君お疲れ様」
「お疲れさまです、今日もありがとうございました」
スタジオ内でのドラマの撮影で、共演していた父親役の俳優と仕事終わりの握手を交わす。
子供らしく無邪気な笑みを浮かべながら礼儀正しく挨拶をすれば、大概の人間は「流石総司君、本当に出来たいい子だね!」とか何とか…
口々にそんなことを言ってくる。
なんて言うかー…。
いつの世も、本当に大人って単純だよね。
愛想笑いしてるのは面倒だけど、扱いやすいという点では、本当に助かるよ。
とかなんとか…
そんな子供らしくないことを考えながら、僕は自宅への道を母の運転する車で向かう。
「(この時代での僕はまだ未成年だし、親無しではこんな仕事できないからね。)」
面倒な時代になったもんだよね、本当。
「総司、明日から新しい家庭教師の方が来るからね」
「あたらしい人?」
見た目は子供でも、僕の場合前世の記憶がハッキリと残り過ぎてるから…
実際精神年齢は成人男性並みな自覚はある。
けれど、そんなの普通じゃない自覚もあるから、僕は誰の前でも基本猫を被って無邪気な子供のふりをする。
「そう。女子大生のお姉さんらしいわ。…優しい人だと良いわね」
「うん!」
…勿論親の前でもね?
………………
「(新しい家庭教師ねぇ…。別に昔寺子屋に行ってたわけでもないし、学があった訳じゃないけどさ、…流石にこんな子供の勉強くらい、教科書見なくても分かるんだけど)」
早く大人になりたいと思ったのは、これで何度目だろうか。
いい加減年相応の幼い子供のような振る舞いをするのも疲れてきたし、そろそろ外見年齢も精神年齢に追いついて欲しい物だ。
…そんな風に、いつも通りにぼんやりと考えていた時…。
ガチャーー…
「さぁどうぞ」
「失礼します」
待ち望んでいたその瞬間は、予告もなく…
…突然訪れた。
「総司、新しい家庭教師の方よ。ご挨拶しましょうね」
事務所の空き部屋に新しい家庭教師を案内してきた母親に言われるがまま、相手の顔を見る前にぺこりと頭を下げて「はじめまして、沖田総司です。」と、いつものように僕は挨拶をした。
そして顔を挙げた瞬間
僕の思考は
一気に停止した
同時に
ーードクンッ
と、心臓が痛いくらいに
高鳴った。
だって
だってそこにはー…
「初めまして、今日から総司君の担当の家庭教師をやらせてもらう、雪村千鶴といいます」
昔と、服装以外何も変わっていない…
僕がずっと恋い焦がれていた、大切な女の子がいたのだから。
けれどー…
「(…どうしてーー)」
神様なんているかどうか知らないけど、いるなら…
もし目の前にいたのら、何故ですか
と僕は確実に叫んでいたと思う。
「じゃあ総司君、早速勉強しようか。勉強どこまで終わったのか教えてくれるかな??」
何故なら
…彼女に前世の記憶はなかったんだ。
それは確かめなくても、僕を見ても反応しない時点で気がついた。
「(はは…、予想外…すぎるな)」
そして、更に僕に追い打ちをかけたのは、あまりに離れた年の差だ。
確か昨夜母から聞いた時は女子大生と言っていたから、すくなくとも18歳を超えているだろう。
「分からないことがあったら、何でも聞いてね!」
訪れた…
ずっと願い続けていた
愛しい彼女との再会は
僕にとっては
本当に残酷とも言えるものだった。
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