NOVEL

□檻-Cage-
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毎日が地獄だった。




「ぁぁあ…っ」




買われては売られて、売られては買われてを繰り返す。

殴られて、切られて、肌を焼かれて、…ただストレスを解消する為の道具にされたり、何かの実験に使われたり、観賞用のペットにされたりする日々…、それが今の私の日常。



何で死なせてくれないのだろうと、何度思っただろう。


だって私は“鬼”だから、心臓か頭を貫かれたりしない限り、死ぬ事はできないから。




簡素なボロボロの衣服以外、何も持たせて貰えない私には、……自分じゃどうやったって死ぬ道は選ぶことができなかった。



だから寿命を終えるまで一生…
私はこのままなのだろうと思ってた。


誰に生き物として扱ってもらえることも無いまま…。


だから…


“その時”は信じられなかった。


自分を、解放してくれる人が現れるなんてーーー…








□■□■□■□






ーー誰もが寝静まる深夜。

小さな街の隅にある、とある貴族の住まう屋敷のすぐ近くで、その屋敷の様子を伺う影が二つ…。


それは、その国直属の機関である、治安部隊の中でも

“精鋭部隊”

と呼ばれる部隊に所属する、二人の男の姿だった。







「ここか、…僕一人でもじゅうぶんかもね。」

「あれだけの所業を重ねているのだ、我々を警戒しているやもしれぬ。小さい屋敷だとて、油断は禁物だぞ総司。…俺は裏から行く。あんたは正面を頼んだ」



総司と呼ばれ、飄々とした笑みを浮かべている男の名前は、沖田総司。精鋭部隊の中でも、随一の剣の使い手であり問題児と言われる男である。

そして、その沖田の名を呼んだ男の名は、斎藤一。
精鋭部隊で沖田に並ぶ剣客であり、時にはスパイや監察などの仕事もになう冷静沈着な男だ。




「油断、ね」



クスっと沖田が笑みをうかべる。


そして「行くぞ…!!」という、斎藤の掛け声と共に二人は同時に地を蹴った。













「ぐぁあ…っ!!」

ーードサ…ッ

「……不用心だなぁ、入口の警備兵がこれだけとか。」



正面入口に立っていたであろう二人の警備兵を見下ろしながら、沖田はつまらなそうに呟いた。

そして騒ぎを聞きつけて騒がしくなる屋敷内を、ひるむ事なく更に突き進んで行く。








そして…。

地下へと続く階段を沖田が悠々と降りた瞬間だった。




「治安部だ!!」

「この先へ行かせるな、殺せぇえーー!!」


ーーキィインッ


「…ーー邪魔だなぁ、もう…!!」



次から次へと現れる警備兵を切り倒しながらそう言いつつも、 沖田の瞳は飢えた獣のようにギラついている。

普通に考えれば、多勢に無勢なこの状況だ。

どう考えても不利に決まっているというのに、彼にとってはそれが楽しくて仕方なかった。



「…ーー総司、奥だ!!!」

「一君?!」


迫ってきた最後の警備兵を難なく切り捨て、声がした後方を沖田は振り返る。


すると、更に後方から迫ってきた警備兵と切り結んでいる斎藤がその視界に入った。

ーーガキィイインッッ

…と、剣と剣がぶつかり合う音があたりに響き渡る。



「ここは俺が引き受ける、あんたはその先の奴を!」



「了解…!!」



言い終えるその前に、沖田は目的の人物がいるであろうその奥を目指して駆け出していった。














「…っぅ……?」


部屋の外の騒がしさに気がついて、少女…雪村千鶴は目を覚ました。

様々な拷問器具の並ぶその部屋には、鎖に繋がれた千鶴以外…誰も居ない。



「………」


部屋の外の騒がしさが気にはなりつつも、あたりをキョロキョロと見渡し、部屋の中には自分だけなのを確認して千鶴は密かに安堵した。



…と、その時。










…ーーギィィ…


「…!!」


部屋の入り口に、突然現れた人の影。


…カツンーー…カツンーー…


と、石造りの床に、その人物の靴音が響く。






ーーまた、憂さ晴らしという名の拷問が始まる。


そう思うだけで、千鶴の身体はガクガクと震え始めた。

鎖に繋がれてろくに動けないのが分かっていながらも、恐怖から千鶴は俯き縮こまって身体を壁にグッと寄せる。


そして、次に与えられるであろう衝撃に備えて、強く目を閉じた。








だがしかし。


「……?」


千鶴が予想していた衝撃は、一行に訪れなかった。
代わりに、聞き慣れない声が耳に届く。


「…、はぁ……噂通りの嫌な趣味してるね、まったく。」


「……?」


新しい兵士か、…もしくは飽きたからと、新しくオークションにかけられるのだろうか。
千鶴は瞬時にそう思っていた。


何故なら、今の千鶴の“飼い主”は、自分と限られた者以外の人間を、けして部屋の中には入れようとしないからだ。



それなのに、今千鶴の目の前にいる人物は、この屋敷に連れてこられてからは、全く見たことがなかった人物だったのである。



「…君、名前は?」

「……ひ…っ?!」


手を伸ばされて、条件反射であろうか。…殴られると認識した千鶴が、ビクッと身体を震わせて小さな悲鳴を上げる。
そこで、伸ばされた手がピタリと止まった。


「…めんどくさいな…」


そうボソリと呟く声が部屋に響く。


「僕は治安部隊の沖田総司。…あの変態爺いに囚われてる奴隷扱いの娘がいたら、保護するよう言われてるから、……面倒だけど連れてってあげるから感謝してね」



言い終える前に剣を構えたと思った瞬間…。
真下を突くように剣を下ろし、沖田は千鶴の手足に繋がっていた鎖を難なく切り落とした。



千鶴は恐怖の入り混じった戸惑いの目を、彼…沖田に向ける。

目の前の娘が自分の正体を探っているのだと理解している沖田は、面倒くさいと脳内でひたすら呟きつつ、恐怖を与えないようにできるだけ優しい笑みを浮かべて見せた。






「……僕は君に危害を加えない。だから安心してついておいで」

「…ぁ……」



自分と壁を繋いでいた切り落とされた鎖と沖田の顔を交互に見ると、千鶴はユックリと…


だが確実に、いまだに震えるその手で、沖田の手を握った。





人間は恐い。

信用もできない。

…けれど、千鶴から見た沖田の瞳に
嘘は感じられなかった。

だから彼女は沖田の手をとった。

どちらにしろ、今より苦しくなることなど、無いだろうからと…。








けれどそれが

自分の人生を大きく変えた瞬間だったのだと千鶴が気付くのは、それから少し先のことである。





END





★☆★☆★☆★



……(´∀`)……。←

本当は沖千←平になる物体。
他サイトでアップ済。

うん、沖千なのは見れば分かるでしょうけどね。
最終的にはそうなります。


一応頭の中に流れは出来上がってますからね(*o´艸`)



でも、とりあえずこれで終わりです。

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