NOVEL

□沖田夫妻とストーカー
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夕暮れ時。
晩ご飯の材料の買い出しに
近所のスーパーへと行っていた千鶴は、鼻歌交じりに総司と暮らしている自宅に向けて一人歩いていた。




「……?」


そんな時、千鶴の鼻歌と足取りがピタリと止まる。


「…ぁれ?」


誰かの視線を感じてキョロキョロと辺りを見渡す千鶴ではあるが、周りにとくに人影は見当たらない。


「気のせいかな…」


首を傾げながらも違和感が消えないのか…

千鶴は足早に自宅への道をかけて行った。






☆★☆★☆★☆





一ヶ月後ーー…





「ねぇ土方さん、今週金曜日の夜に皆で僕達の家に遊びに来ません?」

「……あぁ?」


ある日の昼食時。
普段千鶴の愛妻弁当を食べるが故に、社員食堂には一切来ようとはしない総司が、珍しく…弁当片手にやってきた。
そして飄々とした笑みを浮かべながら更に意外な提案をする総司に、土方は食事の手を止めて怪訝そうな顔をする。



……前世でも現世でも、幼い頃からの腐れ縁の総司のことだ。
こんな事を言い出す時の彼は決まって何かを仕出かそうとしているのだというのを土方は知っている。

それは勿論斎藤や藤堂、原田や永倉も同じで、全員総司の次の反応を待っていた。



「……何をする気だ、ただ普通に飯を食おうってんじゃねぇだろ?」

「流石土方さん、良くわかってますね。…ちょっと手伝って欲しい事が有りまして」


空いている席に腰を下ろし、総司は笑みを絶やさずに言うけれど…


「「「「「……………。」」」」」






「(目が少しも笑ってねぇな)」

「(…てか殺気こもりすぎだろ?!)」

「(オレ昔から思ってたんだけどさぁ…、総司の殺気って、あれだけで人を切れそうな気がするんだよ…)」

「(……土方さん、如何様に?)」

「(ぁー、面倒くせぇな…。仕方ねぇ…)」




チラリと互いの視線を合わせて、口を開くこと無くそんな会話をする面々。

流石昔馴染みと、言ったところだろうか。






「……千鶴に何があったんだ?」


深々とため息をついてから、土方は話を切り出す。
それは他の面々も同じで、総司から直接聞かずとも、千鶴に何かがあったのだと分かったらしい。


…何故なら、今の総司がこれだけの殺気を露わにするなど、千鶴関連以外に考えられないからだ。




「これ、見てもらえます?」


周りの社員達が聞き耳を立てていないのを確認してから、総司は土方達の前に数枚の写真を並べた。


「総司と千鶴ちゃん?」

「こっちは千鶴1人だな…」


並べられた写真をしげしげと眺めながら、永倉と原田が「これがどうした?」と首を傾げる。
すると、その向かい側にいた斎藤が思案顔で呟いた。


「どの写真も…、何一つとして視線がカメラと合ってはおらぬな」

「しかもだいぶ遠くから撮影したんじゃねぇか?画像が少し荒い」


その隣にいた土方も、それぞれの写真を見くらべながら眉根を寄せる。
そしてそれを一緒に眺めていた土方の向かい側にいる藤堂が、声を潜めて言った。


「………ストーカー…?」


彼等のいるその空間だけ、シン…と静まり返り、総司の表情がスッと消える。


「何かここ最近…、千鶴の様子がおかしくてずっと気になってたんですけど…
千鶴は僕が何を聞いても、何でもないですよ、きっと私の考えすぎなので。って言うばっかりで僕にも相談してくれなかったんです」








そんな状態が一ヶ月近くも続いた、つい数日前。

とうとう始まった、千鶴への目に見えたストーカー行為。



自宅マンションの、郵便受けに入れられた写真。

一日に何度も繰り返される無言電話。


沖田家から出たゴミを漁られた時もあった。






「それが起こるのは、決まって僕が居ない時なんですよね」


そう言った後、再び弧を描く総司の口ではあるが…



「(だから目が笑ってねぇんだってば!!)」



怒りで我を忘れるのも時間の問題のようだ。


……背後から凄まじい何かが溢れ出て見えるのは、きっと気のせいだろう。







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