NOVEL
□沖田夫妻とストーカー
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…ーー金曜日。
仕事を定時で終えた面々は、電車で沖田夫妻の自宅であるマンションへと向かった。
そして辿り着いた先で、笑顔で彼等を出迎えてくれた千鶴に、全員はひっそりと安堵する。
彼女の無事を確認できたからだ。
そして促されるままに入ったリビングで、千鶴の用意していた鶏塩鍋全てを綺麗に平らげたところで、総司が後片付けに立ち上がろうとした千鶴を呼び止めた。
「千鶴、片付けは後で大丈夫だから、とりあえずこっち座ってくれる?」
「はい?」
今日、何故土方達がこの家に来ることになったのか。
そこから全てを知らない千鶴は一瞬不思議そうに首を傾げるが、とくに気にした様子も無く大人しく総司の隣に腰を掛けた。
そして総司は隣に座った千鶴の頭を撫でて、忘れる事無く唇にキスもする。
「もう、総司さんたら…」
「千鶴が可愛いから、ついね」
「「「「「……………。」」」」」
皆が見てると恥ずかしがる千鶴も満更ではないようで、二人から放たれているラブラブなオーラが半端ない。
…最早全員が反応すらしなくなってきているのは、言うまでもないだろう。
「皆さんも、知ってらしたんですか…」
今日、何故皆が来訪したのかを知った千鶴は申し訳なさそうに俯いた。
「千鶴が気に病む事など無い」
「そーだよ、オレ達だって久しぶりに千鶴に会えて嬉しいしさ!」
「そうそう、それに100年以上前からの付き合いなんだ、今更遠慮する事なんかないんだぜ?」
斎藤、藤堂、永倉が笑いながら言えば
「この面子で何か調べたりすんのも、新選組の頃に戻ったみたいで懐かしいしな?」
原田も頷き土方をチラリと見る。
そして全員の視線が土方に向いたところで、土方はフッと笑んだ。
「…新選組、か…。
なら…その名にかけても、千鶴の為にキッチリ犯人とっ捕まえねぇとな」
「新選組か!よぉ〜しっ、何かオレすっげぇ燃えてきた!!」
「俺達の仲間に手を出したのを後悔させてやろうぜ!!」
土方の一言で、更にワッと盛り上がる面々。
「ーー…」
そのやり取りを見ていた千鶴の視界と、前世の千鶴の記憶が重なって見えたのは、気の所為なのだろうか…。
感極まった千鶴の瞳に涙が滲み、それに気付いた総司はギュッと彼女の身体を抱き締める。
「泣くのは解決してからにしなよ、この人達なら…直ぐに犯人捕まえてくれるから。きっとね?」
「…っ」
総司の腕の中でコクコクと頷く千鶴に、皆は笑う。
「…そうと決まれば早速作戦会議といくか!」
原田の言葉を皮切りに始まった作戦会議は、夜遅くまで続き…
作戦の決行は翌日土曜日、夕暮れ近い昼過ぎに決まったのだった。
☆★☆★☆★☆
翌朝…。
犯人を捕まえる為の作戦の最終確認を済ませ、土方達は陽も明けきらぬうちにマンションを出た。
彼等が練った作戦はこうだ。
恐らく犯人は一日中、このマンションの近くから千鶴の行動を見張っているのだろうと判断した土方達は、まず千鶴をマンションに一人きりにすることに決めた。
そして、土方達がマンションを出たその一時間後くらいに、総司もスーツ姿で家を出る。
仕事に行くと見せかけて家を出た総司は、駅前のレストランに先に向かった土方達に合流して、昼過ぎになったら着替えてそれぞれの配置に付くことになっていた。
千鶴は同じく、昼過ぎの決まった時間になったら買い物に行くと見せかけてマンションを出る。
最初は千鶴を囮に使うと聞いて、総司が反対したのだが
千鶴の安全の為に、各所に斎藤達を配置することと、何より千鶴自身が「やらせてください」と強く願ったことで、総司は渋々だが納得した。
「僕達のうち誰かが必ず君の近くにいることにはなってるけど…、絶対無茶はしないでね?」
そう言って、護身用にと…スタンガンまで千鶴に持たせたのだが。
「第二地点、…千鶴ちゃんと左之の言ったとおりの人間を確認…と。」
住宅地にあるコンビニの中から、千鶴の姿を確認したのは永倉だ。
「………怪し過ぎだろ、いかにもって感じだぜ…」
千鶴の10m程後ろを、時折物陰に隠れながら歩く人影を永倉は発見した。
そして迷わず携帯を取り出すと、次の地点にいるであろう藤堂に電話をした。
「ニット帽被った黒いパーカーのグラサン男な。了解、新八っつぁんは左之さんとこ先行っといてよ。」
永倉からの連絡を受けた藤堂は、スーパーから程近くにあるカフェの窓際の席から、通りを見渡した。
すると通りを歩いて来る千鶴が視界に入る。
「…きた!」
そして直ぐさまレジで会計を済ませると、レジを離れてユックリと店を出た。
丁度店の前を通過していく千鶴を見やり、怪しまれないように通りの反対側へと渡り、待ち合わせをしている振りをして辺りを見渡す。
すると、報告通りの男が千鶴の後を追って歩いていくのが見えた。
「…ぅわぁ、マジでいたよ」
そう言いながらも携帯を取り出し、次の地点、スーパーにいる土方へと連絡する藤堂。
そして報告を終えると、スーパーの更に次の地点にいるであろう斎藤の元へと向かって走って行った。
そしてーー…
所変わって運動公園。
スーパーから、歩いて15分程の場所にある運動公園に
原田、永倉、総司の三人はいた。
冬目前であるが為に、空は既に薄暗く人影はもうない。
「…土方さん達からメールがきたぜ、もうそろそろ此処に着くそうだ。」
メールの確認をした原田が、携帯を見ながら永倉と総司を見やれば、永倉がニィッと笑う。
「てことは、まだバレちゃいねぇんだな?」
「あの人達がそんなヘマするわけ無いじゃないですか」
その隣で、今か今かと待ち受けている総司がそれを余裕たっぷりに笑い飛ばす。
…が。
「…まぁ、万が一ヘマしてたら…。有名な某樹海にでも、行ってきてもらいますけどね?」
すぐその表情は黒いものを纏い、ただでさえも季節的に冷えてきている辺りを更に凍りつかせる。
「は…はは、総司…その冗談は笑えないぞ?」
永倉が頬をひくつかせながら笑えば、総司は「本気ですけど」っと、あっさり切って返す。
そんなたわいのない(?)話をしていると、とうとう原田達の視界に千鶴の姿が入り、その空気は一変して張り詰めたものへと切り替わる。
「……土方さん達も指定の位置についたみたいだぜ」
その原田の言葉を合図に、永倉と総司も所定の位置についた。
…そして、その時は訪れる。
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