NOVEL

□沖田夫妻とストーカー
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「(…このベンチ、だよね?)」


視線だけをキョロキョロと動かし、ドクドクと早鐘をうつ心臓を落ち着ける為に深く深呼吸をすると、千鶴は街灯のあたらない薄暗いベンチへ腰掛けた。






「(大丈夫…、総司さんも皆さんも…直ぐ近くにいてくださってるんだから…)」


辺りにひと気は無く、怖いくらいに静まり返っている。



そこで一人座っている千鶴を見て、ストーカーの男はいったいどう思っているのだろうか。



「(土方さんの狙い通り…、途中から怪しんでたとしても、…これだけひと気の無い場所なら我慢しきれずに接近してくるのかな…?それともーー…)」



グルグルと、頭の中でそんなことを考えていた時だった。








ジャリ…



…ジャリ、ジャリ…





「…ーーーーッ」




砂利を踏む音が、少しづつ…少しづつ。

千鶴へと近付いてきた。



「…っ(大丈夫、大丈夫…!!)」



俯きギュッと手のひらを握りながら必死で自分に言い聞かせるも、千鶴の心臓の動悸は更に激しさを増し、千鶴に逃げろと警告する。

それでも千鶴は、自分の為に動いてくれている皆の為にと…

その場に座り続けることを選ぶ。





そして俯いたままの千鶴の視界に、一人の人間の…足元が映り込んだ。

ハァハァという、荒い息遣いが聞こえる。








「ち…千鶴ちゃん、会いたかったよ…!」



「…ーーーゃ…っ」




そう言った男の手が、千鶴にグッと伸びてきてガシッと千鶴の腕を掴んだ瞬間だった。










「…それ以上触ったら、殺すよ?」

「…!」


千鶴の後方から聞こえた、誰よりも聞き慣れた…愛しい人の声。

男の動きはビクッと跳ねて止まり、千鶴の身体はベンチ越しの愛しいその人…総司の腕にギュッと包まれた。


「…っそ…じさーーっ」


安堵からか…千鶴の瞳には涙が浮かび、そしてボロボロと溢れる。


「もう大丈夫だよ、千鶴。…怖い思いさせてごめんね?」


振り返りベンチを越えて抱きついてきた千鶴を抱き留めて、総司は男を追うこと無く、千鶴の身体を強く抱き締める。

けれど視線だけは、逃げようとする男の姿を鋭く捉えていた。





ーー逃がしはしないよ。






そう言うかのように。








「ひ…ひと…っ!?」


千鶴以外の人間が居たのが予想外だったのか…
酷く慌てた様子で走って逃げようとする男ではあるが、その前を木陰から出てきた藤堂が塞ぐ。


「悪いけど、こっちは進行禁止なんだよなぁー」


「…?!!」


そして慌てて方向転換しようとする男の後ろに、原田が立つ。


「それとこっちも禁止なんだ、悪いな?」

「…は、…ぇ?!」


更なる人間の出現に一瞬だけ戸惑う男だが、逃げようとするが故に脇目も振らずに二人の間をすり抜けてダッシュする。
それを「往生際が悪いなぁー」と言いながら眺めているのは藤堂と原田。


…が、それも予想していた上での言動で、その先に居た斎藤に道を塞がれた。



「…ど、どけぇーーっ!!」

「愚かな…」


多少思考が落ち着いたのか、正面に居た斎藤が小柄でひ弱そうだと判断した男は、迷わず斎藤に殴り掛かった。


「…先に手を出したのはそちらだ。後悔するなよ?」


そう言うや否や男の拳をアッサリ避けて、斎藤は左の拳を男の鳩尾目掛けて打ち込む。


「…ーーが…っ?!」


腹部を襲った衝撃に喉を詰まらせて、男がよろめけば別方向からきた永倉がそれを取り押さえる。

そして後ろ手に取り押さえられた男の視線の先に立ったのは、腕組みをして見下ろしている土方だった。


「…ーーさて、観念しろよ。
逃げられると思うな?」

「……ぁ…」


青ざめる男の耳に、パトカーのサイレンの音が届く。

そして男が警察へと連行された事で、ストーカー騒ぎは一旦幕を閉じた。





















「残念だなぁ、昔だったら迷わず切ってたのに」

「そ…総司さんっ」

「バカ言ってんじゃねぇよ。あの程度の奴の為に、千鶴残して務所入りしてぇのかテメェは」





その夜。
警察にストーカーをされた証拠品の数々を提出した彼等ではあるが、
恐らく事情聴取が行われた後、男に対しては厳重注意で終わるであろうことは警察に聞かずとも予想はしている。

千鶴達も今事情聴取を終えて、最寄りの警察署を出て来た所なのだ。




「結局ちゃんとした罰が与えられるわけじゃ無いんだろうしなぁ、総司の気持ちはわかるんだが…」

「それをやっちゃ、こっちが終わりだしな。」


原田が困ったように苦笑して、永倉が自分の後頭部をボリボリとかく。



「千鶴は無事だったのだ、今はそれだけでも良しとしておけ」


呆れたように斎藤がため息混じりに言えば、総司は「分かってるよ」と、千鶴にのしかかるように後ろから抱き着きながら頬を膨らませる。

その姿が何とも子供のようで千鶴が苦笑すると、ずっと黙り込んでいた平助が感慨深そうに言った。


「…にしてもあのストーカー男って、千鶴のファンだったんだよな」


その言葉に、千鶴は申し訳なさそうに俯く。


そう。
先程、警察に連れていかれる前…
ストーカーの男が言っていたのだ。


「千鶴ちゃんの、女優時代のファンだった」


と。






およそ一年程前だろうか。
千鶴の急な芸能界の引退報道は、世間を騒がせた。

主演したドラマは大ヒットを記録して、世間に注目され始めた最中の引退宣言だったからだ。



「テレビに出なくなって、もう会えなくなっちまうってなると、…ファンによってはあーなるもんなのかも知れねぇな」

原田のその呟きに「だが」と、付け足したのは土方だった。




「…だからと言って、つけまわすのは褒められたことじゃねぇよ」

俯いている千鶴の頭にぽんっと手を置いて、土方はぐしゃぐしゃと撫でる。

「ゎ…っひ…土方さ…っ?」


千鶴が慌てて顔をあげようとすると、後ろから抱きついていた総司が、身体を僅かに放してヒョイっと横から顔を出してそれを遮った。



「総司さん?」

「…土方さんの言う通りだよ、千鶴。だから君が気にする必要は無いんだ」

そう言って微笑む総司の顔を、千鶴はポカンと見つめる。
そしてみるみるうちに千鶴の瞳が潤み始めた所で、総司の微笑みは苦笑へと変わった。





千鶴の額にチュゥッとキスをして、感極まってしまった千鶴の右手を取る。

そして周りにいる仲間を見渡して「帰りましょうか」と促すと、皆揃って歩き始める。






「ありがとう…ございます…っ」






千鶴の小さなその言葉が、仲間達の楽しげな会話に紛れて
静かな夜の闇に溶けていった。









END














ストーカー話、何気に難しい事がよく分かりました( `・ω・′)
もともと文才も無ければ言葉の表現力も乏しいので余計なのですが(;´Д`A





ストーカーされても、実際警察はそうそう動いてくれないのはニュースなどでも良く取り上げられてますよね。

……まぁ、個人的に…
あれは被害者や警察のせいだけじゃないとは思いますけどね。





因みに。
沖田夫妻シリーズは、短編のようなものでチョコチョコ書こうと決めてました。

沖田夫妻の日常

の次が、

沖田夫妻とストーカー

で、その次は

斎藤さん編

を書こうかと思ってます。
タイトルは多分、沖田夫妻と斎藤さん、かな。


んでもって

沖千←斎

ですかね。
カプ的には。





沖田夫妻シリーズの他は、
沖+斎×千の
双子義兄×義妹3Pネタ(爆)

とか、色々妄想してます←



…完結してない作品多いから、なるべく手をつけないようにはしてますが、妄想が暴走するものだからどうにも…(´∀`)…。





さて、ここまでお読みくださりありがとうございました。
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