NOVEL

□夏恋物語
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…ーー翌日。








約束通り千鶴ちゃんの家を訪ねてみれば、何故か既に彼女は玄関の前に立っていた。

勿論足首には包帯を巻いたままの状態で、腕には昨日の子猫を抱いて何やら話しかけている。


「…、こんにちは…?」


少しビックリしてしまったせいか、口から出た挨拶の言葉が思わず疑問系になる。
けれど、僕の挨拶が彼女の耳に届いた瞬間、千鶴ちゃんはパッと顔を上げて僕に向けて溢れるくらいの笑みを向けて来た。
そしてタイミングを測ったように、彼女の腕からすり抜けて家の中へと入って行く子猫。




「沖田さん…!!」

「…何でこんなところで立ってるの、流石にまだ足の痛み引いてないでしょ?」


ヒョコヒョコと足を引きずりながら歩み寄ってくる千鶴ちゃんを軽く静止させつつ
彼女の前まで僕が進めば、千鶴ちゃんは頬を赤く染めて「沖田さんに、早くお会いしたかったので」と、本当に嬉しそうに笑った。


「…っ」


そんな千鶴ちゃんの笑みに、煩いくらい早鐘を撞くように高鳴るのは僕の胸。

そんな感覚は生まれて初めてで、どう反応したら良いのか分からなくなった末に、僕は誤魔化すように疑問に思っていたことを聞いてみることにした。







「そ…そう言えば…、何で千鶴ちゃん僕の苗字知ってたの?」

とりあえず家の中に入ろうとする千鶴ちゃんを支えてあげなら、単刀直入に聞く。




…と。





「…………。」


やらかした…!!


…、無言になって固まった千鶴ちゃんの顔は、まさしくそんな感じだった。


「千鶴ちゃん、視線泳ぎ過ぎだけど」

「…!!ぇ…っぇと……、ぁの…」


昨日話してた人達の誰かに聞いたのかな?とも思っていたけれど、どうやら違うようだと認識する。

そして千鶴ちゃんはというと、暫し面白いくらいの百面相を繰り広げた後に、何かを決心したかのように自分の胸の前で拳をつくった。

玄関入ってすぐの壁に向かいながら、一人気合いを入れながら頷いている姿は、ハッキリ言って側から見たら凄く怪しい。



けれど、僕にはそれが凄く面白くて可笑しくて、気が付いたら声を上げて笑っていた。



「…ぉ、沖田さん?!」

「いいよ君、最…っ高!」


お腹を抱えて笑う僕に、彼女は「何がですか???」と、心底不思議そうに首を傾げるばかり。

けれど、あえて僕は笑ってた理由を千鶴ちゃんに教えてはあげない。
だって次から見せてくれなくなったら嫌だしね。

「???」

自分で全く気づいてないという事が、更に僕の笑いを誘ったのは言わずもがな、だ。










僕は一頻り笑って、彼女に先を促す。
勿論僕の苗字を知っていた理由を聞き出すために。








「……沖田さんは、私のこと…昨日まで知りませんでしたよね?」


場所は移って居間。
彼女のお婆ちゃんが出してくれた冷たい麦茶と茶請けの菓子類が、テーブルの上に並んでいる。


「うん。平助達は君と面識あったみたいだけどね。僕は君と昨日が初見かな。」


自分の記憶を探っても、彼女は全く記憶にない。
とは言え…、他人のことを
基本余程じゃないと記憶に止めておかないのが僕。

…特に、煩いだけ。
という印象が強いから、僕は女の子なんて更に覚えてない。


クラスメイトすら知らないくらいだ、そう言えば。





「……“今の”私は…沖田さんと初見です。…実を言えば、平助君達とも。」


“今の”

という言葉を強調したのが少し引っかかったけど、そんなことより更に「平助君達とも」と言う言葉が、僕の中に疑問を芽生えさせた。





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