Lost Colors

□無くした二つ目の色
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 驚いた。
 要領の得たように三和は俺をどこかに連れて行く。
 俺は三和にお前がやったのか、と問いただしたが、俺じゃねーよ、詳細は全員が集まってから出来うる限り伝える、といかにも疲弊しきった声音で話した。
 連れて行かれた先には、7人の人が居た。7人が一斉に俺と三和を見る。
「なんだ、これは」
 俺は7人を見渡す。そのうち何人かは俺がつい最近見た顔だった。
 先導アイチ、葛木カムイ、戸倉ミサキ、雀ヶ森レン。
 残りの3人は俺の知らない奴だった。
「これで9人全員が揃ったな」
「じゃあ、とりあえず、各自自己紹介してくれ」
「おい、三和。なんでもいい。てっとり早く状況は説明しろ」
「状況は俺達もわからないんだってー。ただ、共通していることはここにいる全員が何者かにここまで連れてこられたってことだ。それだけが共通している」
「…そうか」
 俺は三和の言葉に自分でも驚くほど冷静に受け止めていた。
 三和がてきぱきと自己紹介を進めていく。
 残りの三人は、新城テツ、鳴海アサカ、光定ケンジだった。
 そして、どうしてここに連れてこられたのかという議論に至った。
 その時。
『やぁ、皆さん。お集まりのようで』
 天井にあったスピーカーから、低くてどこか甘い声が聞こえる。どこかで聞いたことがあるようなないような、そんな気になったが生憎はっきりしない。
 はっきりしていることはこれが人の肉声であるということだった。
「おい、お前なんのつもりだよっ! こんなところに呼び出しやがって、しかも爆弾とかなんとか言って、俺たちのことを騙そうたって…」
 カムイが真っ先に声を上げるが、スピーカーの声はそれを無視して話を進める。
『君たちを呼んだのは、思い出してもらうためだよ。君たちの胸の中、心の中に思い当たることが何かあるはずだよ? まあ、今はいいや。それじゃあ、脱出ゲーム『Vanguard』の説明だね。制限時間は計10時間。脱出できなければ全員ゲームオーバー、皆さんの体内にある爆弾が爆発して皆死ぬ。だから、早くここから脱出できるように、先導者を決めて進んでいけばいいんじゃないかな? ふふふ。君たちにそれぞれ渡した電子キーは君たちの体内にある爆弾と一定の時間で情報を取り合っている。だから、勝手にそのカードキーは交換しないほうがいいよ? 死ぬのは勝手だけどね…それじゃ』
 ”楽しんでね”
 そういって天井の声はぷっつりと切れてしまった。
 その場には沈黙が流れる。
 周りは何も言いださないがこの唐突な状況を飲み込めずにいるのだ。
 はっきりとしたタイムリミットと、そして死の宣言。
 具体的な話に全員が頭を働かせる。
 それはそうだ。誰もが、おそらく体内に爆弾を持っている。
「あ、たしはこんなの知らない」
 アサカが沈黙の中、小さく叫ぶ。
「あたしは何の心あたりもないわっ! ねえ、あんたたちの誰かなんでしょ!? そういえばあんたたちは顔見知りって言ったわよね!? あんたたちのせいでなんであたしが巻き込まれんのよ!? 」
アサカはややヒステリックに叫びだし、ほかのやつらもアサカの発言に触発されて互いに勝手な意見を発言していく。
俺はそんな風景に何も思わずにいた。なにかしたところで事態がよくなるとも思えない。
そう思い、黙り込んで壁に背中を預けて傍観していようと思っていた。が俺と同じようにその場で何も言わず、そこで立っているだけの人物がいた。
「何を考えているアイチ? 」
「ふふふ、櫂くん? ふふふ…みんな自分のことに意識いってるよね。……あのときだって……みんな……そうだった…」
「……アイチ? 」
 前と何かが違う?
 いつものアイチじゃない?
 昨日のアイチはこんなに低音の声を出していただろうか?こんな余裕のある、何かを見下すような…
 そう思考の中で考える間に俺の目の前でアイチは前かがみになって倒れた。
「おい、アイチ!? 」
 俺の目の前でどうしてこいつは倒れるんだ。そう思いながらも、俺はアイチを起こした。
「あれ、櫂くん? ……わっわっ」
 アイチは俺が支えている腕の中で、驚いて小さく悲鳴を上げるが、それに俺はうるさいと眉を潜めるとごめんと一言といって大人しくなる。
「僕どうして……? 」
「いきなりお前が倒れたんだ。覚えていないのか?」
 問いかける俺にアイチはよく覚えていない、と答える。俺はそれに無意識のうちに苛々していたのか、アイチがまた謝った。
「いちいち、謝るな。別に怒っているわけじゃない」
 俺はため息を交えながら、アイチの前髪を書き上げて額に手を当てる。熱かなにかで倒れたのかを確認するためだ。
「熱はないな」
 アイチの顔は赤い気がするが、まあ大丈夫だろうと俺はそう判断する。
 俺がそうして確認をとっているとこちらの状況にようやく気が付いたのか、さっきまで言い争いしかしていなかった奴らがこちらに話しかけに来た。
「とりあえず、どこかでアイチを休めながら、これからの話をすることにしようぜ」
三和がそう取り仕切って、別の部屋に移動することになった。さすがに倒れたアイチを責めるものはおらず、むしろ殺伐とした雰囲気が和らいだようにも感じる。
俺はアイチを戸倉に任せるために、戸倉を呼ぶ。こいつを頼む、というと戸倉は分かったよと言い、アイチの肩を持った。
「あ、櫂くん。さっきはありがとう」
「…体調管理ぐらいしっかりやれ」
 俺はそういうと、どこかの部屋に向かう三和やレンについて行った。
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