ハンター夢出会い〜試験前編

□異世界旅行六〜八日目
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六日目




「おはよう!イルミ!ヒソカさん!」

男2人の(本人たちにしては珍しい)気配りによって

1日で完治したサリーは満面の笑みで扉を開けた

が、2人の姿はない

「まさか!!」

イルミ、ヒソカ部屋への扉を勢いよく開く

「あら?」

想像した光景ではなかったのか

拍子抜けといった様子で首を傾げる

「2人とも何処にいったのかしら」

ベッドは二つとも空になっていた

住人を探して二階に上がるが

昨日この世界に呼び出した紅蓮に燃える獣が寝ているだけだ

気持ちよさそうに眠っているのを起こさないように一階に降り

外へ続く扉を開けた

1月ということもあり冷えた空気に触れると自然と体が震え

自然と自分の肩を抱くサリーの目に

露天風呂からあがる白い湯気が見えた

この寒い中、先日自分がタオル一枚で完成させたものだが

今さらなんであんなにむきになって完成させたのかもわからなかった

(そういえば換金してなかったわね。)

腰に当たった金属の感触で思い出す

(ついでに銀行にも行きましょう。)

成人男性2人の行方をなあなあにしたまま

サリーは1人街へ向かった













「まあまあね。」

帰れと半泣きで叫ばれながら小さい質屋を出る

なかなか分厚い札束のようだが

本人は母方の祖父母の遺伝

商売人の魂は満足に至らなかったようだ

「次は銀行ね」

麻袋に大事にしまったそれを

看病をしてくれた暗殺者の口座へ振り込むべく

そのまま銀行へと足を向けた










銀行内は静かだった

朝ということを差し引いても

異常なほどに

そして何より

鼻を刺すような

生臭い血と嘔吐物の匂い

この世界に来て初めて彼女は凍えるような寒気に襲われた

それが冬のせいだったらどんな幸せだろうかと思ってしまうほどの

殺意

(なにこれ・・・)

床に散らばる

皮膚と血が付いた桃色の爪

桃色を無くした指の先

本来曲がるはずのない方に向いた先のない手

両の手の指をすべて無くした虚ろな目の男

こみ上げる吐き気を堪え

殺意を辿る

獣のようにぎらつく瞳と視線が合い体が硬直した

瞬間

獣が言葉にならない声をあげ

床を蹴る

サリーが全身を奮い立たせるよりも速く

眼前に迫る

振り上げられたのは剣でも鎚でも斧でもなく

赤から覗く白い

(爪!!!!?)

唯一動いた眼と思考だけがその凶器に気付いた

なんとか手が短剣を引き抜く

(間に合わないっ)

回避するにも足は恐怖で引きつり

まったくいうことをきかない

理性があるが故に

その場の状況を理解しようと思考を巡らせる人間が

本能のままに敵を除外しようと動いた獣の動きに勝てるわけもなく

殺意を持って振り下ろされる

「ぐっ!」

一撃は予想していた頭部ではなく

腰にあった

思い切り服を引かれる感覚

「まったく・・・危ないなぁ★」

すぐに背中と膝裏にも軽い衝撃が走る

「ちょっと目を離した間にコレだよ」

「まあ間に合ったからいいじゃないか◇」

疲れたような呆れたような声は足側から

宥める声は頭上から聞こえた

「サリーが動くと何かが起こるね◆」

「え、えっと・・・?」

状況を整理しようと

狐目の男と疲れた声を上げたらしい男を交互に見る

がそれも雄たけびですぐに男へ向けられた

「あ〜怒ってる?」

「そうみたいだねぇ★」

「まあぷくぷくして美味しそうな獲物盗られたらなぁ」

「どんな温厚な狼でも怒るよねぇ◆」

(太ってるっていいたいのかしら?!温厚な狼ってなにかしら?)

と聞きたいものの

喋る2人へ獣が襲い掛かり

それを避けるほどの動きは身軽だが

抱えられてる側はその動きに揺さぶられ

舌を噛まないように口を閉ざし

落とされないように服にしがみつくのが精いっぱいである

つまり無言を通すしかない

「うざい。」

しつこい追撃にキレたらしいイルミが

何処から出したかわからない

ドアノブほどの取っ手がついた針を投げた

その一振りで

獣の顔面に4本の針が突き立てられる

くぐもった声をあげ

両手で針を掴むが

どういう原理で刺さっているのか

引き抜くこともできず

痛みのあまり倒れ足をばたつかせる

「さ、イルミが退治してくれたし帰ろうか◆」

「あーあ、なんで俺がタダで殺ししなきゃなんないんだよ。」

ため息をつきながら外にでるイルミ

ヒソカもサリーを抱えたままそれに続くと家に直帰する

「ごめんなさい・・・。」

小さい声に2人が固まる

「この・・・」

世界と言いかけ

「国が、私の故郷より危ないってことがわかったわ。」

「サリーの国って危ないとこなの?」

「興味あるな★」

「盗賊とか、怪物はいるけど、あんな殺気を出せる生き物いなかったわ。」

(魔族は怖いって聞いてたけどあったことはなかったし)

悲惨な現場を思い出しながら口元を抑える

「助けてくれてありがとう。今日の殺しの料金、いつかちゃんと振り込むわね。」

「一ヶ月以内ね。」

「う、わかったわ。」

「別にいいじゃないか、イルミはアイツがうざくて殺しただけなんだから」

「そうだけど、私があそこに行かなかったら殺す必要なんてなかったでしょ?」

2人は強い、が正義に燃えるタイプでないのは薄々だが気付いているし

ヒソカは戦えないのだろうと思っていたものの

さきほど自分を抱えたままアレを避けたのだから

明らかに身体能力が高い

一撃から救い出してくれた力も気になる

イルミは暗殺者と名刺で宣言しているくらい

殺しという仕事に熱心な人間だ

(普通の人ではないんでしょうね)

だが

風邪を引いた自分にしてくれた優しさには

どうにかして返さなければと

2人には言わず

心の中で誓いを立てた
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