屋敷の中にはあちらこちらに犬や猫が疎らに滞在していた。それを苦笑しながら進んだ先のエントランスホールでは犬や猫を外に追い出そうと頑張っていたのであろう執事達やメイド達。彼等にロックベルが指示を出しながら、皆渋々と言った様子で追い出し作業を中断した。

「皆、しっかりと手当を」

そう言ってロックベルはエントランスホールから皆を立ち退かせ、自分も後に続く。残されたロビンは周囲を見回す。

「……陛下に頂いた置物は無事ですね。トライ卿に頂いた絵画も……」

高価なモノを頭に思い浮かべながら頂きモノの無事を確認していく。

「御主人様」

ふとかかった声に、ロビンは振り返る。

「皆も軽い引っ掻き傷程度で、手当も済みました」

ロックベルの言葉に苦笑を返す。

「貴方がそれ程慌てるなんて本当に珍しい……解りました、先に報告を聞きますので、消毒はしてきてくださいね」

ロビンの言葉にロックベルもどこか安堵した様ではあるが苦笑を返した。

「義賊は花瓶を盗んで行きました……」

ロックベルの言葉にロビンは慌てて踵を返すと広間まで慌ただしい足取りで向かう。ロックベルの様子や自分の中の不安がたった一つのモノへと導く。何の言葉を発さないロックベルに、確信だけがロビンの胸に留まった。目の前の扉を開き、大小様々な種類の花瓶を並べた壁際。その並びに一つだけポッカリと空いた空間。

「……この屋敷には幾つ花瓶があると……」

無意識に漏れた少し彼らしからぬ愚痴に、ロックベルは頭を下げる。

「本当に申し訳ありません」

「あっ、いえ。すみません、まさかこれだけある調度品からまさかこの花瓶が盗まれるなんて誰だって思いませんよ……」

とても困った様に肩から前に垂らした髪を梳く。その指は微かに動揺を見せるように震えていた。

「……しかし困りましたね……ロックベル、皆に無理を言って申し訳ないのですが、馬車を出して頂けますか?」

本当に申し訳なさそうに言うロビンに、少し安心した様子でロックベルが頭を下げた。

「すぐに。他の皆は休ませても宜しいでしょうか?」

「あっ、はい」

「では私も共を」

「あっいえ、ロックベルは休んで頂いても……」

「いえ、今回は我々の不手際。一同の代表として尽力させてくださいませ。決して引き下がりは致しません。何せロビン・デューク公爵様の執事長でございますから」

そう言って頭を下げるロックベルにロビンはとても面白そうにクスクスと笑う。

「どちらも頭が固いと言うことですね」

「その通りでございます」

頭を上げて優しく笑うロックベルに『ではお願いします』と言うと、着替える為に自室に戻ろうとして足を止めた。

「着替えてきます。ロックベルは馬車の用意と消毒を忘れずお願いしますね」

釘を刺すと、とても穏やかないつもの彼らしい微笑みが返ってくる。それを見て、安堵の表情で広間を出ていった。


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