君と僕と花

□#003
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『い、いやだっ!絶対に俺はそんなことはしない!』



「お願いよ。ね?いいでしょ?」



『い、いくら妙ちゃんの頼みといえど・・・・それだけは絶対にいやだ!』




壁際に追い詰められた深月姫と、怪しげに笑いながら迫る妙。
何故こうなったかと言うと、遡るは五分前。




「いらっしゃい、みーちゃん」




妙に「遊びに来ない?」と呼ばれ、志村邸に訪れた深月姫。
そこには女物の着物を何着も抱えた妙がいた。




『た、妙ちゃん?なんでそんなに大量の着物を持って・・・・』



「みーちゃんに着せるためよ」





部屋に入った瞬間からあった嫌な予感が的中した。



男として生きることは、もう祖父と父親からは「しなくていい」と言われた。
しかし十数年も抱えていたものをいきなり投げ出せるはずもない。





今もなおウィッグを装着し、男の格好をしていた。





『や、やめよう妙ちゃん』



「だってみーちゃんも女の子の格好に興味があるでしょ?」




確かに女の格好にも興味はあるが、恥ずかしいという気持ちの方が大きい。




『俺も妙ちゃんと女として一緒に歩いてみたい。でもいきなりはさすがに・・・・』



「・・・・・そう、残念」




目を伏せてがっかりそうに項垂れる妙。
その表情に深月姫は弱かった。




それを妙も知っていてこの顔をしているのだろう。




『・・・・しょうがない。今日だけだ』



「やったぁ!ありがとう、みーちゃん!」





そして深月姫は妙の着せ替え人形と化した。




「これも似合うな」「こっちもいいな」と妙が一人で首を傾げ
最終的に決まったのは一時間後だった。





黒地に桜の花の模様で、帯は淡いピンク色。
着物というよりは和風のゴスロリに近いものだった。




髪はサイドのポニーテールにし、凛々しさはなく可愛らしい美少女に変わっていた。





「みーちゃん可愛い!!」



『そ、そうかな・・・・・』



「その格好の時は゛俺゛じゃなくて゛私゛の方がいいわよ」



『うん』



「みんなに見せたいなあ。銀さんたち呼びましょうか」



『それは恥ずかしいからやめてくれ!』



「冗談よ」




完全に遊ばれている。
妙には勝てないな、とため息をついた。




『私はもう帰るよ。稽古があるから』



「あら、そう?」




自前の袴を探し、辺りを見渡す。
しかしどこにも見当たらない。




『妙ちゃん。私が今日着てきた袴は?』



「・・・・・どこかしらねえ」





爽やかに笑う妙。
その瞬間、「はめられた」と顔をしかめる。
最初からこれが目的だったのか。




『仕方ない、今日はこのまま帰るよ』



「ええ。袴が見つかったら届けるわね?それじゃ、また遊びに来てね」



『ああ。今日はありがとう』





志村邸を出て、「これからどうするか」を必死に頭を巡らせて考える。
このまま車を呼んでもいいが、確実に祖父や父、四天王たちに驚かれる。






東条が鼻血を吹き出してカメラを構える画が容易に浮かんだ。
かなり面倒臭いことになりそうだ。




適当に服屋に入って男物の着物を買い、そこから車を呼んで帰る。
それが一番いい案だと思い、早速歩き出した。
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