短編

□落日
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空にぽっかりと浮かぶ黄金色の夕日を、公園のベンチに座りながら眺める。
ため息を吐くと、微かに白く濁ってから消えていった。




思い浮かぶのは、あの女―――――なまえの顔。
万事屋の旦那の女らしいが、旦那には勿体ねェ良い女。





いつも優しい笑顔浮かべて、純粋で、そのくせ芯が強くて。
いつのまにか好きになってやがった。




二人の仲を壊してやりてェが、なまえが旦那といることを望んでるなら
その幸せを奪うのは気が引ける。




どうにもできねェ。
厄介な女に惚れちまったもんでい。






『・・・・・・・沖田さん?』




細い声に呼ばれて振り向きゃ、そこには会いたかった女が立っていた。






「なまえ、何してんですかい」



『散歩、です。沖田さんは?』



「俺もそんなところでさァ」





隣いいですかと聞かれ、勿論と答えた。
ふわり、と花のような柔らかい良い香りがする。






「香水ですかい?」



『分かります?新しく買ったんです』



「良い匂いがしまさァ」





微笑むなまえ。




その時ふと、違和感を感じた。
いつもと違う。





なまえの笑顔に、ほんの少しだけ憂いが含まれている。
伏せられた瞳と丸まった背中が、悲しみを帯びていた。




俺だって真選組だ。
それなりの観察眼は持ち合わせてる。





「・・・・・・何かありやした?」



『え?』



「悲しいこと」



『・・・・・・何も悲しんでなんかないですよ』



「バレバレの嘘はやめなせェ」



『ふふっ、沖田さんに嘘はつけませんね』






なまえの表情は一気に暗くなった。
今にも泣きそうなのを必死に堪えているような顔。







『私・・・・最近、会うどころか連絡すら取ってないんです。銀ちゃんと』



「そりゃ一体どういう了見でい」



『分からないけど・・・・銀ちゃんはきっと、神楽ちゃんや新八くんと一緒にいる方が楽しいんです』



「んな訳ねえでしょう」



『みんなそう言うけど、あてにならないことばっかり・・・・』





俯いて肩を震わせる。
微かに聞こえる嗚咽。







居ても立ってもいられなくて、思わずなまえを抱きしめた。
冷たくて、細ェ。





『お、きた・・・・さん?』



「泣かないでくだせェ・・・・」



『そんな優しいこと言われたら、余計泣いちゃいますよ・・・・?』



「幸せになってもらわねェと、旦那から奪いたくなっちまうんでさァ」



『え・・・・?』



「好きなんです、あんたのこと」





抱きしめる腕に力を込める。





「“俺のこと好きになれ”なんざ言わねェ・・・・けどせめて、幸せになってくだせェよ・・・・」




俺となまえの微かな嗚咽が重なる。





「さあ、もう笑いなせェ」




夕日が沈み、電灯が瞬いた。





旦那、次なまえを泣かせたら
俺は本気であんたをたたっ斬る。





そしてなまえを奪ってやる。
だから、覚悟しといてくだせェ。







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