短編
□ブラコン姉貴とツンデレ弟B
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初夏になると思い出す、あの人の柔らかな微笑み。
もしかしたらまだこの世に存在してるんじゃないかと時折思ってしまう。
『ミツバ・・・・・・』
呼び掛ければ、返事をしてくれるような気がした。
『(会いたいな・・・・)』
彼女は笑顔、声、雰囲気、何もかもが優しくて。心地好くて。
大好きだった。
瞬きを一度すると、一粒だけ涙が落ちた。
こんな感傷的な気持ちになるのは、今日がミツバの命日だからかもしれない。
遣る瀬なさを噛み締め、煙草に火を点けた。
「なまえさんも煙草なんか吸うんですかい」
『・・・・・・総悟』
お茶と茶菓子をお盆に乗せた沖田が部屋に入ってきた。
勝手に入ってきたことを咎めるわけでもなく、自分の隣に座らせる。
『落ち込んだりした時はね、たまに吸うの』
「やめてくだせェ。土方さんみてェだ」
『私には褒め言葉だよ、それ』
ふふ、と笑う。
だがその顔には明るさが無い。
「今日、命日ですね」
『そうだね』
お茶菓子の中に紛れ込んでいた、真っ赤なせんべいを手に取る。
一口噛ると、ピリピリと刺すような辛さ。
こんなものをミツバは美味しそうに食べてたっけ、と涙と共にせんべいを飲み込んだ。