short novel

□一片のさくら
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さくらひらひら、舞い降りて落ちる。



まるで夢の中のように、はらはら散って、消えてゆく―――



―一片のさくら―



身体が、消えてゆく。




さくらとなって、舞い散ってゆく。
これが最期なんだなぁって、思ったの。
ウツシミとして生まれてきた、『サクラ』の最期。






「あなたのさくらが、待ってる」





あなたに最期に、伝えておきたかったの。

ずっと私のせいで一人ぼっちだったあなたに。

きっと、傷付けただろう、あなたに。



…ウツシミでも、『さくら』って呼んでくれた、あなたに。



もう、そんな辛い瞳をしなくていいんだよ。





「どうか…これからは…あなたの本当の大切な人のために」


優しすぎるあなただから。




「…自由に…」













―さくら、ひらひら舞い散る。揺れる想いを表すように、ひらひらと。



そっと、貴方の腕に、寄り添う。
私を刺して、目を見開く貴方。

貴方が悪いんじゃないの。
私が、やると決めたことなの。





「私たちは創りものでも…同じ…だから」

そう、同じ。

あの二人も、私たちも、同じ『小狼』と『さくら』だから。

あの二人が生きていてくれれば…終わりじゃ…ないから…。
だから…そんな悲しい顔しないで。

もう、傷つかないで。



貴方に…最期に、伝えたいことがあるの。

一人になってしまった、貴方に。

私のために、人を傷付け、傷付いた貴方に。



私のことなんて、なんとも思ってないかもしれない、貴方に。



それでもいい、伝えたい。
どうかこの想いだけは、伝えさせて。

この身体は、命は、創りものだとしても、



この気持ちだけは、『本物』だから。









―わたし







「…貴方が…」











―…ずっと……―













「…す…」
















―…き……―
















―さくらひらひら、舞い降りて落ちる。

そのさくらは、
その言葉は、
彼の腕の中で、儚く、静かに、消えていった。



一片のさくらを、彼の瞳に映して―――





END
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