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□ツバサ
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「怖くなんてないよ」


少し目を伏せ頬を染めながら、サクラはそう言った。






    ―ツバサ―




「おはよう!小狼!」

「ひ、姫!?」

やっと夜が明け始めた時、聞こえてきた戸を叩く音。
そして、当たって欲しいような、欲しくなかったような予感。
戸を開けた瞬間、自分の勘は当たっていたと理解した。

「小狼今日から他の国の遺跡視察に行くんでしょ?
だからお見送りにきたの!」

「あの…姫…」

「敬語はダメッ!!」

「あっ、…うん」

サクラは納得いったように笑い、家の中へと入ってきた。
その笑顔に見惚れつつも、お馴染みとなった台詞を言ってみる。

「まさか…また一人で?」

「え?うん!」

当たり前に言うサクラに軽くため息をつきつつ、口を開く。
思わず、強い口調になっていた。

「サクラはお姫様なんだぞ?まだ夜も明けきってないのに危ないじゃないか」

「小狼…だって」

「いくら平和だって、何か起きてからじゃ遅いんだ」

「…ごめんなさい」

気付いた時にはサクラはしゅんとなっていて。

「今回は長期だって兄様が言ってたから…小狼をお見送りしたかったの…」

少し震えている声を聞いて、俺はあたふたと慌てた。
肩にそっと手を当て、なだめるように言う。

「お、怒ってるんじゃなくて…サクラが怖い思いしたらって、心配なんだ。
…ごめん。言い過ぎた」

「ううん、私が悪いの!小狼謝る必要ないよ!」

一生懸命に言う姿が可愛くて、笑みが零れる。

「…紅茶でも飲もう。その後送って行くよ」

そう言ってキッチンへと立った俺に、サクラもまた嬉しそうに笑った。





今回は二ヶ月に及ぶ視察。
資料や旅支度で少し散らかる部屋で、俺達は笑い合えてた。

「それでね、また兄様がね…」

平凡なこと、いつもの兄妹ゲンカのこと。
話は絶えなかった。
サクラの話を聞くのは楽しいし、なによりその瞳に映っていたかった。


…が。


ちらりと時計に視線を向ける。
もうすぐ、ここを出なければいけない時刻。
サクラも俺の仕草に気付いたみたいで、悲しそうに眉を下げ、黙り込んだ。


「…送るよ。行こう」

「…うん」

空いている手で彼女を立たせ、そしてまだ明けきってない細い道へと、足を踏み出した。




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