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□君はオヒメサマ
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‐君はオヒメサマ‐
サクラver.




「どうして私は“姫”なの?」

ほとんど、無意識で紡がれた言葉。
言った後で何故だか恥ずかしくなって、小狼君を見た。小狼君は、訳が分からない、といった様な困った表情をしている。

「あ…あのね!なんで私のこと“姫”って呼ぶのかなって…意味で…」

「えっ?」




ファイさんは『サクラちゃん』



黒鋼さんは『姫』



モコちゃんは『サクラ』



…みんな思い思いのまま呼んでいるのに。



何故だろう?
いつも何処かで、違和感を感じていた。



視線を合わせているのが恥ずかしくなって、
小狼君の瞳がいつもより真剣な気がして、
私は手元のカップに視線を移した。
ゆらゆら、紅茶が揺れている。


「…なんだか小狼君に“姫”って呼ばれると、変な感じがするんだ」

その時私の視線は紅茶に向けられていて。
…気付かなかった。

小狼君の瞳が、ほんの少し揺らいだことに。


「なんでだろうね?」

小狼君に視線を投げかける。
彼は、ほんの少し淋しそうな顔をした後、いつものように微笑んで、


「俺にとって、貴女は“お姫様”ですから」

小狼君のこの言葉が、胸に刺さる。
それから小狼君は、おかわり持ってきますね、と言って席を立った。

残されたのは私と、まだ半分以上残っている紅茶だけ。

ゆらゆら揺れる紅茶に映った自分の影。
私はただ、ぼぅっと眺めていた。



そう、あれは雨の日


“初めて”貴方を見た時



一度だけ、貴方が心から、本当に嬉しそうに笑いかけてくれたよね。


たった…たった一度だけ、貴方が『さくら』って呼んでくれたよね。



その笑顔を思い出すたび、その言葉を思い出すたび、

胸がギュッて、苦しくなる。



…その理由を考えようとしても、


いつの間にか…意識は朧げになってしまう。



いつか…いつか羽根が全て集まったら、ちゃんと解るのかな。



この胸の痛みを。





そしたら言おう…


大好きな貴方に。



「姫、おまたせしました」

琥珀色の優しい眼差しが、胸を温かくした。




『貴方は私の、大切な人です』って―――




END
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