short novel
□願い事、ひとつだけ。
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―願い事、ひとつだけ。
「えぃっ!」
ピンク色の花びらがひらひら舞い降る中で、サクラは空を掴むように手を上げて握り締める。
祈るようにそーっと手のひらを開いてみても、そこにサクラの目的の物はなかった。
「難しいよ〜〜っ!」
「何しているんですか?姫」
「小狼君!」
振り返ると、其所には小狼の姿。
小狼は花びらの中の少女を、ただ眩しそうに見ていた。
「あのね。この花びらを地面に落ちる前にキャッチ出来たら、願い事が叶うんだって!」
「…踊ってたんじゃなかったんですね」
「そんなふうに見えた!?///恥ずかしいよ〜!」
「いえ、綺麗でした」
その一言に、少女は顔を真っ赤に染める。
自分の発言に恥ずかしくなりながら、小狼はひらひら漂う花びらを見つめてる。
―スッ
花びらを追っていた瞳が閉じられて、ゆっくりと右手が宙を舞う。
―フワッ
「どうぞ」
「えっ?」
小狼の手のひらには、2枚のピンク色の花びら。
1枚は姫に、そう言ってサクラの手に乗せる。
「ありがとう///」
「いえ、今日は姫の誕生日ですから」
「小狼君…///」
「ち、ちゃんとプレゼントもありますよ!///」
妙に焦っている小狼にクスクス笑いながら、さくらはただただ嬉しそうに、小さな花びらを握り締めた。
そっと閉じられる、翡翠の瞳。
その心に願う事は、ただ一つ。
「願い事…叶うといいですね」
「うん、小狼君も!」
「ありがとうございます。
あ、ご飯の用意ができたそうですよ。行きましょう」
「うん!」
くるりと向きを変え、歩き出そうとした瞬間、タイミングを見計らったかのように吹く一陣の風。
その風は花びらを舞い上げ、視界を桜色に染め上げた。
「わぁ綺麗…きゃっ!」
「姫っ!」
一面の花びらにみとれるあまりふらつく足元。
倒れこむ先に伸びる手、かばう身体。
せつなに触れる、唇。
「…!?///」
「あっ…///」
花びらの絨毯から直ぐ様起き上がり、唇に手を当てたまま反対方向を向く二人。
舞い散る花びらの様に、頬を染めながら。
「ご、ごめんなさい///」
「ぃ、いえ!姫が謝ることじゃ…///」
しどろもどろになりながらも、そこを動けなかった。
サクラが呟いた一言に、小狼は気付かない。
暫くして小狼が立ち上がり、スッと手を差し出した。
「…また転ぶといけませんから///」
「あ、ありがとう///」
舞い散る桜の中、重なる手に照れながらも笑みをこぼす2人。
小狼が繋いだ手に僅かに力を込めたのを、サクラは気付かない。
そんな2人を見守るかのように、桜の花が咲き誇っていた――。
end…