request novel
□-Please call me-
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-Please call me.-
―すぅ、すぅ…
ふっと目を開ければ、自分の部屋ではない天井。
ソファーの側に山積みになった本に、テーブルに広げられた読みかけの歴史書。
柔らかい、とは言い難いソファーから身を起こし、手を伸ばして大きく伸びをした。
「いつの間にか…寝ちゃったのか」
この国の歴史書を読むうちに、ついつい夢中になってしまったらしい。
サクラとモコナが部屋に戻り、ファイさん、黒鋼さんもいなくなったこのリビングで一夜を明かしてしまった。
外はもう、うっすらと明るくなっている。
「お…か…なさ…」
「えっ…?」
小さな声と寝息に視線を動かすと、向かいのソファーにはサクラの姿。
上半身だけ横にして、すやすやと眠っていた。
「何で、サクラが…?」
そこまで言って、初めて自分の身体に毛布がかかってることに気が付いた。
そして机の上には冷たくなったコーヒーが、ゆらゆらと水面を揺らしている。
「…ありがとう。サクラ」
音をたてないようにそっと身を起こし、かかっていた毛布をサクラにかける。
コーヒーと毛布にこめられた、彼女の優しさに感謝しながら。
少し身じろぎした後幸せそうに笑いながら、サクラはそのまま寝息を刻む。
「楽しそうだな。…どんな夢、見てるんだろう」
そっと頭を撫でると、一段と笑みが深くなる。
前はよく、寝ているサクラをこんな風に撫でたな、なんて思い出していた。
「しゃ…らん」
「…ん?」
「しゃお…らん」
撫でていた手がピタッと止まり、顔が熱くなってくる。
『小狼』なんて久しぶりで、ついつい嬉しくなってしまった。
幸せそうなサクラの夢の中に、自分も登場してるんだと分かって。
「…何?…サクラ」
応えるように彼女の名前を呟く。
もう一度呼んでくれたならという、小さなワガママを忍ばせて。
「しゃおらん…」
今度は言葉で応えず、その無防備な頬に口付ける。
「…さくら」
―夢の中だけでもいいから、
どうか俺の名前を呼んで。
今だけでいいから、
どうか君の名前を呼ばせて―――。