short novel

□After Rain
1ページ/2ページ




…もし、この夢みたいな今が終わっても、

あなたに、会えますか?





―雨と夢の後に―




「あっ、小狼君…雨だよ!」

そう楽しげに言ったサクラにつられて、俺も空を見上げた。
カタンッと窓を叩いた音は、次第に強く、多くなっていく。

「そう…ですね…」

僅かに目を細め、答える。いくつかの光景が、目の前に浮かんでは、心に痛みを残して消えてゆく。

「もしかして…雨、嫌い?」

サクラは心配そうに俺を覗き込む。

「…そんなことありませんよ」

無理矢理笑顔を作って答えた。
そんな俺の様子に、黒鋼さんとファイさんは気付いたようだ。

「サクラちゃーん。お茶入れるの手伝ってくれるかなー?」

「あっ、はい!」

パタパタとサクラは窓際から離れる。ファイさんに目でお礼をいうと、俺はもう一度外を見た。



…雨は好きじゃない。



始まりの時、絶望の時、別れの時、
気付けばいつも、雨だった。


自分の1番最初にある、人々の蔑んだ目――



父さんが、死んだ日――


そして―――



『あなた…だぁれ?』

『はい…“サクラ姫”』





…君の“幼なじみ”だった自分に、サヨナラを告げた日――



窓ガラスに置いた手から伝わる、冷たい感覚と小さな衝撃。
嫌というほど、これが現実と思い知らされる。

…まだ、これは夢なんじゃないかって、思うときがあるんだ。
君が…サクラが元気に駆け寄ってきて、『小狼』って呼んでくれて…


馬鹿みたいだ。
俺の記憶は、存在は、もうないというのに。



「…下を向くな。前だけを見てろ。」

「黒鋼さん…」

いつの間に後ろに来たのだろう。それとも、そんなに自分は考え込んでいたのだろうか。
自嘲気味に笑いながら、視線を外に戻す。




始まりはいつも雨



終わりも、いつも雨



いつかこの旅が終わる時にも、

この夢が終わる時にも



雨が降るのだろうか…




『小狼っ!』



雨が降ったら、あの頃の君に会えますか?



この夢が終わっても、あなたに会えますか…?


側にいさせて…くれますか…?





END
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ