short novel

□箱庭スノードーム
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―箱庭スノードーム―




「綺麗だね、『クリスマス』って」

「そうですね」

「雪降らないかなぁ…絶対綺麗だよね」

「この国では『ホワイトクリスマス』と呼ぶそうですよ」

「素敵だね!」


吐く息が空気を白く染めるほど寒い季節。
今滞在している国は平和そのもので、行き交う人々は手を繋ぎ、幸せそうにほほ笑む。
神様の誕生日を祝う今日『クリスマス』は、町中がキラキラと彩られていた。

クリスマス、という聞きなれない異国のフレーズを、サクラは楽しそうに口ずさむ。
楽しそうなサクラを見て、小狼はさらに楽しそうに笑った。


「姫…手を出してもらえますか?」
「えっ?」


小狼の突然の申し出に、サクラはどきりと心臓を大きく鳴らした。
だってさっきから周りの人達は、みんな手を繋いでいるのだ。

(もしかして…手を繋いでくれるのかな?)

向けられるふんわりと優しい笑顔に、勝手に顔が赤くなっていく。
手をつなぐ恋人達をチラチラと見ていたから、気付かれちゃったのかな?
繋いでみたい。私もあんな風に、小狼君の近くにいたい。そんな私のお願いを。

コートの裾で手の平をギュッと拭った後、おずおずと手を差し出した。
サクラの手の甲に自分の手を重ねるように、小狼が触れる。



「メリークリスマス。俺から姫に、クリスマスプレゼントです」


言って、私の手の平に置かれた、赤い小さな箱。
緑色のレースリボンに飾られて、Merry X`mas!とメッセージが付いていた。


「なんだ私てっきり手を繋いでくれるのかと…」
「何か言いました?」
「な、なんでもないのっ!開けてもいい?」
「どうぞ」


ドキドキしながら、レースリボンをシュルリと紐解く。

(わぁ…綺麗)



中から現われたのは、半球型の小さなスノードーム。
小さな家と雪だるま。2人の女の子と男の子が手を繋いで、仲良さげに寄り添っている。
「ここを押すんです」と小狼が土台のボタンを押すと、白いキラキラがスノードームを彩る。

サクラの手の上の箱庭だけに、ホワイトクリスマスが訪れた。


「姫、『雪が見たい』と言ってたから。俺は魔法使えないので…すみません」
「ううん、すっごく綺麗…。ありがとう小狼君」
「どういたしまして」
「いいなぁこの子たち、とっても仲良さそうだね」
「そうですね」


にっこりと笑うサクラに、小狼は安心したように笑顔を返した。


「何か私もお礼したいな…。何がいい?小狼君」
「…なんでもいいですか?」
「うんっ、私にできることなら!」
「じゃあ…」


一回コートの裾で手を拭き、今度は小狼が、すっと手を差し出した。


「手を、繋いでもらえますか?手袋を忘れてしまって、とっても寒いんです」


赤く染まった頬は、寒さのせいではなく、自分と同じことを考えていたから?
サクラは嬉しくなって大きく頷くと、スノードームを大切にポケットに入れた。
それから、遠慮がちに小狼の手に触れる。


「小狼君の方が温かいよ」
「そんなことありませんよ。さぁ帰りましょう、みんな待ってます」



すっぽり収まってしまったサクラの手は、逆に包まれた小狼の体温で温められた。
自分もあの2人のように小狼君の近くに居ると考えると、サクラは幸せで仕方なかった。

大切な宝物が一つ、大切な思い出がまた一つ増えたクリスマス。



ポケットの箱庭に重なり合うように、小狼とサクラは寄り添ってクリスマスの街を歩いて行った。


END

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