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□ツバサ
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二人分の、足音が響く。

左手には、旅支度。
右手には、サクラの細い指。

「………」

さっきの悲しげな顔が頭をちらつく。


知らない遺跡。
まだ見ぬ憧れ。
抑え切れない好奇心。
なにより、父さんの夢。


暖かな笑顔。
飽きない楽しげな声。
抑え切れない気持ち。
なにより、1番大切な人。

どちらも、特別で。大切で。
順番なんて、つけられない。



「怖くなんてないんだよ」

「えっ…?」

「一人で歩く道だって、怖くないの」

足音しか聞こえない空気を破ったのは、サクラの一言。
唐突な言葉に驚きつつ、サクラが話すのを待つ。
彼女は足を止めずにゆっくりと続けた。

「…私が怖いのは、小狼にずっと会えなくなることだもん」

「サクラ…」

「だから大丈夫だよ?また会えるって分かってるし!
寂しい時は小狼の事考えるから、寂しくなんてないよ」




もうすぐ、集合場所の城門に到着する。
それは、精一杯の強がりで。
サクラの、見送るための言葉に、一瞬目の奥が熱くなる。

遺跡発掘という夢を追うことに恐れは全くなくて、
クロウ国を旅立つことも、仕方がないと分かっている。
…それでも、悲しい思いをさせてしまうのが悔しかった。

「あぁ。俺も、サクラのこと考えるから。それで…」
「……?」

「また、鳥を見に行こう」

「うん!」

返事をした後、また沈黙が流れる。
しかしさっきまでの悲しい雰囲気は薄れて、目の前に映る黄色く見える太陽に、ただ俺達は魅入っていた。

城門に到着と同時にサクラは俺の前に回り込む。
すっ、と目の前に出された小指。
サクラがいつもやる、約束の証。

絡ませた指に伝わる温もりに、笑い合う。



「いってくるよ」

「いってらっしゃい!」

しばしの別れの挨拶を交わし、他の視察員に続く。

空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。



「綺麗な空だ」



旅立つ空の下、
新たな出会いとしばしの別れがあるけれど、

また君に会えると分かっているから。

帰る場所があるから。



大事な君との約束が、あるから。




帰って来たら一緒に空を眺めて、羽ばたく白いツバサを見つめ、





そして、笑い合おう――



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