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□ツバサ
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――――


「どうしたの、小狼君?」

「姫…」

二人で買い物途中、ふいに足を止めた俺に、サクラが声をかけ、近寄ってくる。
俺は一度サクラに視線を移し、また空を見上げた。

「今日はいい天気だと思って」

「本当だ!綺麗な青だね!」

サクラも俺と同じように空を見上げ、その翡翠の瞳に青だけを映す。



…あの時も、こんな綺麗な空だった。

空の青を見ながら俺は思う。

『また、鳥を見に行こう』

結局あの約束は果たせぬまま、永遠に俺の記憶の中のものだけになった。

「………」

「…寂しいの?小狼君」

「えっ…?」

「今、難しいかおしてたよ」

心配そうにサクラが覗き込んでくる。
顔の近さに、頬が熱くなるのを感じながら答えた。

「大丈夫ですよ」

「本当?つらい時は言ってね。心配くらいは…させてね」

「…はい」

サクラの優しさに、心が温かくなった。

「じゃあ約束!!」

ずいっ、と目の前に出されたのは、やはり小指。
思わず小さく吹き出してしまう。

変わらないんだ。
記憶がなくたって、俺のことを忘れていたって、
やっぱりサクラはサクラ。
俺が大切に思っている君なんだ。


「小狼君?」

首を少し傾け、不思議そうな顔で俺を見上げる。
すみません、と言った後、その細い小指に自分の指を絡ませた。

「約束だよ?ちゃんと言ってね?」

「はい」

「それと…一緒にいてね?」

「…はい」

互いの熱が伝わり、微笑みあう。
その瞬間、バサッ!という音と共に、近くの木から鳥達が白いツバサを広げ羽ばたいて行った。

「わぁ!綺麗…」

青い空に吸い込まれるように飛んでいく鳥達。
俺達は、ただただそれに魅入っていた。







「行きましょうか」

「うん!」

彼らが白い点ほどにしか見えなくなると同時に、俺は手を差し出す。

左手に伝わる、大切な温もり。



変わらぬ空に、変わらない大切な君を重ねて、

サクラがサクラで有る限り、俺の気持ちも変わらないと誓った。





だから羽根が集まったらその時は、





また共に笑い合えますように。






俺の願いに答えるように、ツバサの羽ばたく音が、一回だけ聞こえた気がした―――



END
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