request novel
□笑顔の先には。
3ページ/4ページ
―――
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま…でした///」
結局ずっと『あーん』を続けることになり…俺の顔は今にも湯気がでそうなくらい赤くなっている。
その熱を冷ますように、ばふっ、と背中を芝生に預ける。
視界には、青い空が広がった。
「気持ち良いね」
「はい」
サクラも同じように仰向けになり、同じように空の青を眺める。
…昔も、こんなことがあった。
お城の庭で二人手を繋ぎながら話して。
遺跡の話、街の事、異国への憧れ。
…それらはもう、二度と戻らない過去。
「…サクラ姫」
「なに?」
「手、繋いでもいいですか?」
俺の小さなワガママに、サクラは顔を少し染める。
その後返事をする代わりに感じた、左手に温もり。
「…ありがとうございます」
「私も…なんだかこうしたかったの」
そうして暫く二人で陽気に包まれながら寝転んでいると、隣から聞こえるあくびが1つ。
当たり前だ。サクラは今日きっと、かなり頑張って早起きしたのだから。
「姫、寝てもいいですよ。側にいますから」
「うん…ありがとう」
目を擦り、まどろみながら答える。
その翡翠が完全に閉じる前に、サクラはゆっくりと話し始めた。
「前にもね…こんなことがあった気がするの」
「えっ…?」
「前にも、誰かに笑って欲しくて一緒に出かけて…。手を握って…お話して。すっごく幸せだった気がするの」
「…そうですか」
「あれ…誰だったんだろう?いつか思い出せるかな…?」
「………」
「小狼君だったら…いいの…に…」
無意識の願望を紡いだ後、サクラは夢の中へ入っていった。
聞こえるのは規則正しい小さな寝息と、さわさわと髪を揺らす風の音だけ。
起こさないように、でも手は離さないように慎重に身体を起こし、サクラの頬に触れる。
「求めなくて…いいから」
自分達の関係は、もう2度と戻ってこないから。
脳裏を過ぎったのは、ここと同じように桜舞う国。
対価の重さを改めて突き付けられた、満月の夜。
「今は…側にいさせてくれ」
頬に触れていた手を肩に滑らせ、起こさないように、大切に腕の中に収めた。
甘いサクラの香りと、心地よい温もりに、自然と目閉じてくる。
「しゃおらん…くん」
意識を手放す寸前、呼ばれた名前にさらに抱く力を強めて。
―君の笑顔が曇らないよう、願うから。
…俺も、笑うから。
いつも貴女は笑顔でいて
君の笑顔の向く先には。
…願わくば、
俺が映って、いますように。
END