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□君にとっての、プレゼント
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「大丈夫?」
「はい。すみません、泣いてしまって」
「ううん、すっごいいい映画だったもんね!」
ラストのシーンを思い浮かべ、幸せそうに微笑むさくら。
「そうですね」
軽く頷き、少し目を伏せて返事をする。
さくらは知らない。
俺の泣いた理由を。
主人公に自分を、重ねてみていたなんて。
「小狼君?」
「なんでもありません。あっ、少し公園寄ってきませんか?」
「う、うん///」
少し緊張した面持ちで、公園へと足を進める。
俺も…映画みたいに、たださくらに笑っていて欲しいだけなんだ。
俺は、右手をそっとポケットに入れ、包み紙の存在を確認した。
「いいお天気だね!」
「はい」
ぽかぽかと暖かい陽気が辺りを包む。
俺達はベンチに座り、青い空を眺めていた。
…今しかない。
俺は、ぐっと右手に力を込める。
「姫、これ…」
「えっ?」
「誕生日プレゼントです」
…やっときりだせた。
「で、でも私何も用意してないし…」
「俺があげたいから、いいんです」
まだ何か言いたげなさくらを制し、包みを開く。
現れたのは、桜の花を象ったブレスレット。
「姫、手を出して下さい」
「つけて…くれるの?」
おずおずと出すさくらの白い手を、優しく包む。
金具のチャラ、という音が、なんだか心に響いた。
「この花は桜というそうです。…よく似合ってますよ」
「ありがとう///」
まださくらの手に触れたまま、さくらの表情を伺う。
よかった、気に入ったみたいだ。
「…私も何か、あげたかったな」
ポツリと紡がれた一言。
それを聞いて、顔が少し熱くなる。
「じゃあ…貰ってもいいですか?」
「何を?」
さくらは不思議そうな顔で俺を見る。
俺は、重なっていた手をゆっくりと持ち上げた。
自分の口元まで。
透き通るくらい、白く、繊細な指に、
淡い淡い、朱い痕を残す。
「ありがとうございます」
「これが…プレゼント?///」
「はい」
もし嫌だったら、すみません。と慌てて付け加えた。
…ほとんど無意識に身体が動いていたから。
「全然嫌じゃないよ!もう一つプレゼント貰ったみたいで悪いなぁって…」
「えっ…///」
「あっ…///」
顔を赤く染め俯くさくら。…つまり、今のは嬉しかったってことなのかな?
「あ、あのね…///」
「はい?」
―ぐいっ
小さな手が、肩に触れる。
頬に伝わったのは、柔らかで、温かな感触。
鼻をくすぐったのは、甘いりんごの香り。
そして目に飛び込んできたのは、サラリと揺れる、ハチミツ色の髪。
「ひ、姫!?///」
「私からの…プレゼントだよ…///」
「…ありがとうございます///嬉しいです」
恥ずかしそうに言うさくらの手をとって、静かに立ち上がる。
「…帰りましょう///」
「…はい///」
春の木漏れ日の中、二人てを繋ぎ、歩いて行く。
誓いをたてた、左手へのキス。
想いをこめた、頬への口付け。
それらは後には残らないくらい、淡く、優しいものだけど。
永遠に心に残る。
俺にとってのプレゼント
君にとっての、プレゼント
END
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