*novel*

□*Birthday 4/1*
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一緒に居たい。傍に居たい。
もしもそれが叶わなければ、



早く伝えたい この気持ち





【君の許へ】





「あ〜あ…」


煌々と光る星空の下、サクラは自分の部屋のテラスから城下の町並みを眺めていた。
思い出すのは数時間前の、夕暮れ時の出来事。


『えー!小狼、明日出発しちゃうの!?』

『あぁ…』


ごめん、と続けて言われ、サクラは何も言うことが出来ずに立ち尽くした。

何日も前から楽しみにしていた誕生日。2日には長期の遺跡調査でまた町を空ける小狼の為、そして自分の為にも1日は目一杯に楽しもうと思っていた。
なのに、出発の予定が一日早まってしまったようで、明日の四月一日の午前中に小狼は玖楼国を出てしまうらしい。


「小狼と一緒じゃない誕生日、逢ってから初めてだな……」


そして、誕生日に「おめでとう」と言ってもらえないのも。


「あ〜あ…」


小さく独り言を言い、そしてもう一度盛大に声を漏らしてサクラは部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。
初めて迎える切ない誕生日に、少し瞳を曇らせたまま。




* * * *




ちゅんちゅん、と鳥の声が聞こえ、サクラは布団の中でごそりと動く。
いつの間に眠っちゃったんだろう、などと寝惚けた頭で考えながら布団の端から顔を出す。まだ白んだ程度の薄明るい空が眼に入り、もう一眠りしようと枕に顔をうずめたサクラだが、


「……ん?」


一瞬見えた残像のようなものが頭の中でくっきりとした形になり、慌てて起き上がる。すると、そこには…−−−


「小狼!!」


そこには、見つかってしまった、という顔でテラスの手摺りにぶら下がっている、小狼がいた。
しかもいつものブーツや手袋に加え、マントもズボンも黒という、全身黒ずくめの格好。


「いったいどうして…−−−」

「サクラ」


自分が寝衣であるのも忘れて駆け寄ってきたサクラに、小狼はまだあどけなさの残る可愛い笑顔をふわりと浮かべる。
そして、サクラの言葉を遮って、言った。


「誕生日、おめでとう」

「え…?」


満面の笑みの小狼に言われた言葉がいまいち飲み込めず、ぱちぱちと眼を瞬かせるだけのサクラに、小狼は笑顔のままヒラリとテラスに降り立った。


「今日は一日ずっと一緒に居られないから、せめて朝一番に逢いたくて」


それを聞いて落ち着いてきたサクラはようやく状況を飲み込め、小狼の見たかったいつもの笑顔で返事をすることが出来た。


「小狼も、お誕生日おめでとう!」


おそらく、小狼は昨日のサクラの落ち込み具合を見て、そして自分も一緒に過ごしたかったからこそ、どうしても一言伝えたかったのだろう。
そして、全身真っ黒の目立たない服を着てまで、城に忍び込んだのだ。


「めずらしいね、小狼がこんなことするなんて」


クスクスと笑いつつ、小狼のいつもなら緑の黒いマントの裾を引っ張るサクラに、小狼は頬を薄く染め、そして弁解じみた本音を漏らす。


「…どうしても、言いたかったから……」


その為に、こんな下手をしたら城兵に捕まるようなことをしたのだから、サクラのクスクス笑いは一層深くなる。
決死の行為を笑われてしまった小狼は困ったように眉尻を下げていたが、すぐに一緒に笑い出す。




ほんのわずかな、ひと時の逢瀬。

そんな幸せの時間を、一瞬たりとも忘れないように、心に刻み込むために。





君の許へ
「来年は、私が城を抜け出して小狼に逢いに行こうかな!」
「えぇ!?…そ、それはちょっと…っ!」






『君の許へ』fin
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