08/07の日記

20:56

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「三代前の王、正確に言うならば彼女は「女王」であった。癒しの力を持ち、慈しみの心を持った美しい女王の下、魔界は繁栄したらしい」
「癒しの力……なんだかティオのようだの」
 説明を聞きながら、ガッシュが呟く。
「そうだな、もしかしたら同じか、もしくは近しい一族なのかもしれんな。魔界中から敬愛されていた女王は温かな朱色の髪の美しい人物だったらしい」
「でも、私その人のこと聞いたことないわ」
 初めて知った話に、ティオは首を傾げた。
「それはそうだろう。彼女の次の代の王は民に不人気で横暴な人物で、彼女の功績を残さぬよう文書から彼女のことを削除し、女王の噂をしたものを処罰したと言われている」
「どうして、そのようなことを」
「人気のあった先代と比べられるのが嫌だったのだろう。それはもう、徹底的にやったそうだ。かつて多くあった彼女の肖像画も、もう一枚たりとも残ってはいないそうだからな」
 根っからの善人である現王は、複雑な表情をした。
「もっとも一代前……先代の父上のことだが、彼女の記述を削除した王の次の代になると、再び彼女の功績を語ることは許されるようになったらしい。だが長い時間は彼女の存在を人々の記憶から既に消し去ってしまっていた」
「……そうなんだ」
「女王の名は、ソフィと言ったそうだ。彼女の代に、この本の著者は刑に処されている」
「刑って、この人はどんな悪いことをしたのかしら」
「そちらも一応、調べてみた。なんでも彼は狂人であり、危険人物だったそうだ。だが、具体的な罪状はわからなかった」
「刑って、まさか処刑されたの?」
「いや、もっと残酷な刑に処されている」
「更に残酷な……刑?」
「そうだ。死後も魂を牢獄に閉じ込め、決して生まれ変われないようにしてしまう、歴史上でもっとも残酷な最高刑だ。魔界の歴史でもこの刑に処された者は片手で事足りるほどしかいない。前代である父は、刑そのものを廃止していた」
 その場にいたゼオン以外の全員が、顔色を変えた。
「な、どうしてそのような惨い真似を?」
「その時の王様は、優しい魔物だったんでしょ?」
「ああ、そうだ。万民から慕われるほどのな」
「じゃあ、どうして……」
「それは俺にもわからん。それだけのことをしたのか、もしくは別の理由があったのか」

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