NARUTO短編集
□精神安定剤
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失恋、した。
そもそも無理だったのだ。無謀だったのだこの恋は。
そんなことは百も承知だった。
だけれど、何も言わずにこのまま終わるのはもっと嫌だった。
せめて、もういっそ憎悪の対象でも何でも良いから、私をあの人の目に写して欲しかった。
どんなに他人に異常な愛と言われても、それを止める術など若い私には分からなかった。
『恋は盲目』って、本当にそうだと思う。
だって今私は生きる意味など無いと思っている。
ご飯を食べる理由も呼吸をする理由も五体満足な理由も、全て生きて彼を見て感じる為。
それが出来ないのなら、させて貰えないのなら、行き着く先は―・・・・
ひやりと、自分の目の上に何かが乗った。
驚きのあまり声を上げると、それがびくりと震えた。
目を開けると、目の前には幼馴染のシカマルが居た。
「腫れるぞ。」
そんなことを気にして泣くのを我慢しろと言うの。
良いわ。どうせ私が一重だろうと二重だろうと、彼には関係無いんだから。
それでも、彼の手にあったパックジュースを受け取り(奪い取り)、ストローを穴に刺して一気に吸い上げる。
しゃくり上げるばかりで乾ききっていた喉をそれは潤し、パックの中身が既に半分は無くなっているであろう事に気付いた。(そんなことどうでも良いけど。)
風が、私よりも長いシカマルの髪を揺らした。
何故だかそれが酷く美しく見えて、私はまた新たな涙を流した。
でもこれは、私の愛しい彼の為の涙では無い事に気付かなかった。
「男はアイツだけじゃねーぜ。」
「だけどあんな素敵な人は居ないもの。」
「じゃあずっとそうやって泣いてるんだな。」
この男は、優しいのか意地悪なのか。
シカマルは頭を掻き、はぁと溜め息を吐いた。
シカマルは私情を絡めない判断をしてくれるから好きだ。
けれどたまに現実的過ぎて、感傷的になっている時は傷付く。
「さっき振られたばかりで、すぐ立ち直れるわけないでしょ。
シカマルは頭は良いけど、もう少し人の気持ちを考えても良いと思う。」
言ってから、少し罪悪感に似たものを感じた。
シカマルは私を励まそうとしたのだ。そんな事は分かっている。
だけど今は悲し過ぎて、そんな事は考えて居られない。
シカマルは眉間に寄せた皺をピクリと動かし、面倒そうに話した。
「そうかも知れねーけどよ、それが今回の事に関係あるのか?
泣いたって事態は変わらねぇ。ならすぐにでも次に進むのが一番お前にとって良い事だ。」
シカマルは正しい。
だけど私の、彼への気持ちを否定しないで。
今すぐに感情を切り替えるなんて、それでは私は彼の事など好きでは無かったかの様ではないか。
だとしたら今までの私は、一体何だったの。