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□フェンス越しに見た鳥瞰図*
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ここはナツの通う学校の屋上。
周りの土地よりも少し高台の地に建てられたこの校舎は、フェンスを覗けば少し遠くにある街を鳥瞰することができる。
周りには商業施設どころか住宅の数も少なく、少し隔絶されているように感じる土地柄ではあった。
が、ナツはその学校の屋上で1人、静かな時間を過ごすのが好きだ。
しばしば昼休み後の授業をサボっては、屋上で遠くを眺めてみたり、少し横になってお昼寝の時間を満喫するもありといった感じである。
この場所に居るときは、授業中だからという理由もあるが、聞こえるのは風の音、鳥の鳴き声……
それ以外の音は全く聞こえない。
まるで自分1人が生きているような錯覚に陥る。
おまけに、ナツ以外の人は誰一人この場所に来ることがない。
いつでも一人きりになれる。
こんな心地好い空間は滅多にない。
屋上へ繋がる扉の内と外ではまるで別世界のように感じられるこの空間が、ナツの知る限り最も落ち着ける場所なのであった。
今日もまた、教室で友達と弁当を食べくだらない雑談をしたあと、屋上へと続く階段を登り、5限目の始業チャイムが鳴ると同時に扉を開けた。
昨晩は、日頃の勉強に対する怠惰な姿勢が災いしてか、今日までに提出しなければならない課題が山のように積もっていた。
ナツは何度も寝落ちしそうになりながらも、ようやくそれらを終わらせることができたのは、ちょうど新聞配達の原付バイクが走る時間帯。
そのためほとんど寝ておらず、午前中の授業も眠くて眠くて、講義の内容などほとんど頭には入ってこなかったのだった。
そんなわけで一刻も早く睡眠という至福の時間に浸りたいナツは早速、お昼寝する時の定位置へと移動し、腰を降ろす。
そして首に巻いた鱗模様の白いマフラーをゆっくりと外すと、それを丁寧に畳み、枕代わりとして頭の下に敷いて、仰向けに寝っ転がった。
真上にはちょうど太陽があり、まだ春とはいえど、1日のうちで最も陽射しが強いこの時間帯。
ナツは暑さには平気なのだか、少し眩しかったため左手の甲でその陽射しを遮ると、そこでぷっつりとナツの意識は途絶えた。