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□interaction*
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「おぉー、すっげぇ!!これ、全部グレイが作ったのか!?」
グレイの家。
一人暮らしのこぢんまりとしたテーブルの上に、これでもかと並べられた色とりどりの豪華な品々を見て、ナツの目がキラキラと輝く。
ナツがグレイの家を訪れて夕飯を食べることはよくあるのだが、今日はいつにもまして贅沢な品々ばかり。
「あぁ、そうだぜ。もちろん、ナツへの愛情をたっぷりと込めて」
「…なッ//……そ、そんな臭いセリフ言われてもテレねぇぞっ!!」
「顔真っ赤にして言われても意味ねぇよバーカ。さ、好きなだけ食えよ。今日は最高の夜にしようぜ。」
そう言うと、ナツは早速ナイフとフォークを手に取り、目の前のビーフステーキへと食らいつく。
次々に皿の上のものを胃袋へと収めていくナツを見ながら、こんなに美味そうにモノ食べるやつ、ナツのほかに見たことねーなぁとか思っていると、ずっと見られているのが居心地悪かったのだろうか、ナツが訝しそうな表情で尋ねる。
「……モグモグ………ん、グレイは食べないのか?」
「ん?あぁ、俺は後でナツを食うから、大丈夫だ」
「……………変態」
相変わらずのいつものやり取り。
はたから見ればそれは仲むつまじいカップルのようにしか見えないが、何かが違う。
違うというよりも異様と言った方がよいのだろうか。先ほどからナツに注がれている熱い視線の奥底には、確かに邪な感情が含まれている。
グレイはナツを溺愛している。
それは既に周知の事実であり、ナツのことになると、時としてグレイは思慮分別がつかなくなるほど盲目的になる。
いつもナツのことを考え、ナツの隣にいて、ナツを甘やかし、ナツの同意を得た上でキスをして、組み敷いて…
常日頃ナツに対する欲にまみれたグレイだが、いつだって本能を抑えナツの意思を一番に考えてきた。
けれどグレイの中にあるその抑制された欲求は、年月をかけゆっくりと、しかし確実に沸々と沸き上がっていき…
そしてある日唐突に、しかも一瞬のうちに、その欲望を押さえ込んでいたダムは決壊した。
一度張力を失った水が、バケツの中から止まることなく溢れ続けるのと同じように、グレイの容量から漏れ出たリビドーは、ナツを滅茶苦茶にしたいという衝動に走らせる。
ナツをこんなに愛しているのに、ナツのために尽くしているのに、なんで俺だけのものじゃないんだ。なんで俺だけを見てくれないんだ。ナツには俺さえいればいい。あとは何も要らない。ナツは俺のためにある俺だけのもの。
そんな訳の分からない狂愛染みたグレイの感情には気づかず、当の本人はグレイの前でなんの警戒心もなく食事を続ける。
グレイの口端が自然と上がる。
今日は最高の夜。
忘れられない夜。
この手で愛する者を壊す罪深い夜………
「……ふぅー、食った食った。グレイの手料理はやっぱうめぇや。」
「まだ全部じゃねーよ。」
「へ?……」
「今日の極め付きはコレだ。」
グレイがそう言って差し出したのは、グラスの中に注がれた、シュワシュワと炭酸が弾けている淡い紫色の液体。
「ん〜〜……なんだこれ?」
ナツは訝しげにその液体を眺めながら、グラスに問いかける。
「コレはなぁ。『ラブポーション』っつーカクテルだ。」
「ラブ……ポーション……??ん、なんか、可愛らしい名前だな!!」
ラブポーションと言えば、惚れ薬とも言われるように、一般の人が聞けば怪しむような名称ではあるのだが…
そういうことに疎いナツは、当然その言葉の意味を知るわけがなく、無頓着な言葉を返す。
予想通りの反応だな、と内心で薄笑いを浮かべると、そのグラスの片方をナツへと突きだす。
「ほら、飲んでみろよ。」
「うぅ… 俺、酒ニガテなんだけど…… 」
「ほんの一口だぜ。大丈夫だって。それにな。この酒を飲んだカップルは、永遠に結ばれるって言われてんだ。ほら、乾杯して飲もうぜ。」
「え、永遠に………そ、そうか!!じゃあ飲もう、かな」
ナツは照れくさそうグラスを手に取った。
いつだって可愛い反応を見せてくれるナツを見て、グレイの良心が僅かながら痛む。チクチクと心の端を何かがつつく。
チン、と音を立てて乾杯した2人は、一気にその液体を飲み干した。
「ん〜〜……なんか、変な味。」
「大人の味だからな。ナツには分かんねぇかもしんねぇなぁ」
「べっ、別におれは子供なんかじゃねぇし!」
「クスッ……さてと、ナツは先にシャワーでも浴びてこいよ。俺はここの片付けしとくからよ」
「ん、さんきゅ」
ナツから空のグラスを受けとると、グレイの目論見どおりに浴室へと送り出した。
ナツが部屋を出て行くや否や、グレイは狡猾な笑みを浮かべる。
それと同時に、先ほどまでのナツを見る優しい目つきはどこへやら、瞳の奥に抑え込んでいた雄の、捕食者の目にがらりと変わる。
なぁナツ。
もうすぐ永遠に俺だけしか見られないようにしてやるよ。