二次創作小説T
□ただ、アナタと一緒なら
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「へえ・・・じゃあ、室星さんの部屋を女子部屋仕様にして、それをこはるさんが使うことになったんですね・・・」
こくり、と嬉しそうに頷いて、こはるさんは僕の腕を引いて自身の部屋へ招き入れた。
因みに、部屋の改造を主に行ったのはヒヨコさんだそうで。
大勢のヒヨコさんがその為に大行進して、兄さんが気を失って倒れたのは・・・・かなり記憶に新しい。
僕は、女子部屋にするって話は聞いていたけれど、それを女子メンバーの誰が使うかは知らなかった。
昨日の晩決めたそうだから、当然の話かもしれない。
「でも、七海ちゃんや深琴ちゃんとお話しながら寝るのも楽しかったので、ちょっと残念だなって思うんです」
「そうですか・・・・僕だったら二人部屋とか耐えられないですけど。こはるさんは、そんなことないですもんね」
ある意味、こはるさんと僕って別の人種です
よね。
とはいえ、逆に同じ人種ばっかりっていう方が恐ろしい気がする。
こはるさんみたいに明るい人ばかりだったらいいかもしれないけれど、僕みたいな根暗が大量発生した世界なんて、残念以外の何者でもない。
「そうですね、確かに千里くんは嫌がってしまいそうです。でも、もしですよ?誰かと同室にならなければいけなかったとしたら、誰を選びますか?」
こはるさんは向かい合った椅子のドアよりの椅子の方に座るように僕に言って、自分はその反対側に座った。
僕らの座っている椅子の間にあるテーブルの上に置かれている、焼きたてらしく美味しそうな匂いを放つ焼き菓子に手を伸ばす。
もし僕が誰かと二人部屋になるとしたら・・・・あー・・・・。
そうですね、間違っても結賀さんは有り得ないです。
彼と一緒になるくらいなら死を選びます。
それから・・・・室星さんは何を考えてるのか分からなくて怖いから却下。
加賀見さんは・・・・・生理的に受け付けないタイプですね。
乙丸さんは、根っから悪い人でないのは分かりますが、その天然さで僕が幾度となく被害を被ってきたり・・・・・あと、結賀さんの味方になりやすい人なので回避しておいた方が身の為だと思います。
宿吏さんは・・・・・兄さんと知った今では多少一緒にいたいと思ったりもするんですけど、まだ前怖いなって思ってたのもあってずっとってなると辛いものがあると思います。
それに、蟠りっていうのとは違う気がしますが・・・・どうしたらいいのかわからなくなってしまったりするんです。
もうちょっと時間が必要なのかもしれません。
あと・・・・・まあ遠矢さんとか二条さんならまだマシだと思います。
もし、最悪そんなことがあったとしたら、二人のどちらかを選んでいたと思いますね。
何はともあれ、一人で良かったと思います。
「・・・・・遠矢さんか、二条さんなら譲歩します」
「正宗さんに朔也さん・・・・お二人共優しい方ですよね!」
「あくまでも、マシ、という話ですよ、こはるさん。やっぱり僕は一人がいいです」
「あはは・・・・そうですよね。・・・・あ、あの、千里くん」
「何ですか?」
言い辛そうに話し掛けてくるこはるさんに、僕は急に何事かと首を傾げた。
「・・・あの、ええと・・・・その」
もごもごと話すこはるさんを急かそうとはせず、「はい」と一言返して、こはるさんが作って持ってきてくれた焼き菓子を口に運んだ。
別に急ぎの用事も無いし、ここはこはるさんの部屋だから誰かに干渉されたり、況してあの人が侵入してくる危険も無い。平和だ。
「千里くん、私達は・・・皆さんと、いつまで一緒にいられるのでしょうか・・・・・」
「・・・・・。」
ああ、そのことですか。
僕らが世界と呼んでいたアイオンは機能を停止させ、リセットは行われなかった。
能力も失わず、銃だとかいう武器の撲滅の為、僕達はまだ当分はこの船で旅を続けることになりました。
この前の騒動によって船を降りた人もいます。
大半は、その能力を活かす為に降りなかったですけど。
僕の場合は・・・・また別の理由もありますが。
こはるさんが皆さんと一緒にいたいと願ったことも理由の一つでしょうか。
「いつかは、バラバラになるんでしょうか」
「そうですね・・・・いつかはそうなると思います。」
「ですよね・・・・でも私は・・・・」
しょんぼりと俯いたこはるさんに、僕は期待された答えを返すことはしなかった。
・・・・こはるさん自身、答えが分かっているだろうから。
それでも、尋ねずにはいられないんでしょうけど。
「一緒にいたいんですよね?この船の皆と。」
「はい・・・・」
「じゃあ、こはるさんは、今の旅の目的・・・・武器の撲滅を、どう思っていますか?それに、僕達の能力が使われることに、賛成ですか?」
「ええと・・・・・」
「こはるさん、僕は今の活動が、平和に繋がるなんて思っていません。全くって言っても構いません。多分、他の人もそう思ってると思います。あの武器は、いくら焼き払ったとしても、作り手と記述さえあればまた生み出される。この世界から消えることなんてないんです。寧ろ、僕達が消すのよりも・・・・・その何倍もの速さで、次を作っているのかもしれません」
「・・・・・!!そんな・・・・」
僕の言葉に、だんだんこはるさんの顔が青褪めていくのが見て取れた。
僕だって、考えたくはない。
ネガティブ思考はいつものことだけれど。
「意味があるのか、無いのかさえ、今の僕達には情報がない。明らかに情報不足です。」
「確かに・・・・。でも、どうすればいいんですか・・・!?」
「わかりません。・・・・ああ、もう。この為の、リセットだったんですよね・・・。あの事件の時、武器の恐ろしさを強く感じたつもりでしたけど・・・・・・甘かったですね。こうして、未来を左右することになるのは・・・・わかっていたつもりになっていただけだったみたいです」
「はい・・・・わたしも、そうです・・・・。思ってました。無謀な事なんじゃないかって・・・・・でも、そう思いたくなかったんです。思ってしまったら・・・・・この旅が無意味なものになってしまう気がするんです・・・・!!離れ離れになってしまうって・・・!!」
目に涙が溜まっていき、溢れる。
幾筋もの涙が頬を伝い、床に落ちた。
旅をする必要が無くなれば、それぞれ散り散りになってしまう。
「こはるさん・・・・・」
僕が顔を覗き込んで目を合わせれば、堪えられなくなったように僕の胸に縋り付いてきた。
「い、一緒に・・・・いたいです・・・・!千里くんと、皆さんと!わたしだって、皆さんとずっと一緒なんて無理なんだって分かってます。だから、手紙を交わしたり、たまに会って、一緒にお出掛けとか出来たらそれでいいって思ってます。深琴ちゃんも、七海ちゃんも。離れててもわたしの初めての友達には変わりありません。他の船の皆さんも。ずっとずっと、大切な仲間です」
「そう・・・・ですね。ある意味運命共同体でしたし」
「はいっ・・・・わたし、皆さんが大好きなんです」
「知ってますよ」
顔を上げ、泣きながら笑うこはるさんの目尻の涙をそっと拭う。
釣られて思わず微笑んでしまった僕の方を、こはるさんがじっと見詰め、そして。
手を伸ばしてきて、僕の頬に触れる。
「・・・・?」
「千里くんは、本当に優しいです。そういうところが、わたし、大好きなんですよ!」
「・・・・・っ!そ、そうですか。それは良かったです」
頬が熱くなっていくのを感じる。
今、絶対顔が真っ赤だと思う。
バレていないようなので、いいんですけど。
「でも、どうしたらいいでしょうか?」
「はい?何がですか?」
「わたし、千里くんに呪われてしまってるじゃないですか」
「僕だって、あなたに呪われてますよ。それが、どうかしたんですか?」
「深琴ちゃんとか、七海ちゃんは手紙や一緒にお出かけ出来れば、寂しいのは寂しいですけど、まだ我慢出来るんです・・・・・でも、千里くんだけは・・・・っ」
「・・・・っ」
思わぬ言葉に、ただでさえ赤かった顔がもっと赤くなった。
心拍数が、これは絶対異常値を示しているだろうと確信出来るほどに早く打つ。
呼吸困難になる・・・・というのは、些かオーバーだけれど、ちょっと呼吸の方法を忘れかけた。
「離れるの、嫌なんです・・・・!ずっと、一緒にいたいっ・・・」
「こはるさん・・・・」
「嫌です、わたし、もう誰かが居てくれる温かさを知ってしまったから・・・・!!一人ぼっちで、誰にも会うことを許されなかったあの頃のわたしには戻りたくないです・・・・!千里くん、こんなわたしのこと・・・・我が儘だと思うと思います。でも、誰かではダメなんです。もうわたし・・・・。千里くんじゃないと・・・・っ」
「僕も・・・・です。そういえば、これから僕がどうしたいのか・・・・話したこと、無かったですよね?」
「は、はい。聞いたことないです」
「僕は、家にだけは帰りたくないって思っているんです。力が強くなった僕を、村の皆は喜んで迎えるかもしれません。あの村にとって、僕は村の住人の一人じゃない。ただの、村を存続させる為の駒なんです。期待が外れれば捨てられる。それだけです。そんなのは、ごめんですから」
その気持ち、人々に恐れられたこはるさんにはよく分かる筈。
こはるさんは、悲痛な表情を浮かべて一つ頷いた。
「それで、千里くんはどうするんですか・・・・?」
「・・・・・あ、あなたの傍に居ちゃいけないんですか。どこだっていい。この船で旅を続けてもいいです。こはるさんの家に行ってもいいし、二人だけでどこかへ旅をしてもいいと思っています」
もう一度、こはるさんは頷いた。
「ただ、それとは別に、やはり旅の意味は重要です。実は、このことについて遠矢さんと話し合ってみてるんです。多分、遠矢さんから二条さんとか大人のメンバーには伝わっていってるでしょうね」
「それでは・・・・!」
「また、皆さんで話し合うことになると思いますよ」
ほっとこはるさんが息をつく。
「ねえ、こはるさん。一人で悩まなくて大丈夫です。この船には仲間がいます。そのことを僕に教えてくれたのは、あなたじゃありませんでしたっけ?」
「あ・・・・っ」
「話し合って、どうするのか決めましょう。大丈夫ですから・・・・・わっ」
急に引き寄せられ、抱き締められた上で頭を撫でられた。
・・・・・・ん?
これって・・・・・。
「こ、こはるさん!!子供扱いしてませんか・・・・?」
僅かに怒気を乗せて問えば、顔は見えないけれど、こちらの感情とは裏腹の嬉しそうな笑いが聞こえてきた。