短編

□貴方の笑顔が私の
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ごめんね。

わたしがそういうと、彼は悲しい顔をした。
今にも泣き出しそうで、見てられなかった。
繋いでいるては震えている。


私は貴方にそんなかおをしてほしいわけじゃないんだよ、本当よ。私は貴方が大好きで、貴方の笑顔に幾田となく救われてきたの。本当なの。嘘じゃないわ。
できることなら、ずっとずーっと貴方の側にいたい。
けれど身勝手にそうできるほど、私は自分に責任は持てない。
それに、親には逆らえないの。だって、嫌でも親で、私をここまで育ててくれた人だから。
自分より私を優先してくれるただひとりの人の最後の望みを、期待を私は裏切れないの。

でも本当はね、逃げ出してしまいたいの。
貴方がこの手を引っ張ってくれるなら、貴方の話す迷宮に飛び込んでみたいの。

そして、平和な国にいったり、仲間をふやしたりして、みたいの。

ねぇ、ひっぱってもいいんだよ。

私はどっちでもいいから。


「アリババ、私は貴方に従うわ。」

別れるも何をも、貴方に委ねる。

アリババの気持ちを知ってアリババに辛いことを、私は押し付けた。
それがどれだけ酷なことか、子どもね私は知らなかったから。


辺りはすっかり真っ暗だった。
手は二人とも震えていた。
寒くなんかちっともないはずなのに、手はガッチリと離れないし視界はぼやけてアリババが見えない。

「ねぇ、アリババ。私は、どちらでもいいのよ。」

「でもお前は、それを俺に選ばせはしない」

「そんなこと…」

ない、といえなかった。
最初からわかっていることだったのだ。
私はアリババと一緒にはいけない。
アリババも引っ張ればしない。
なんせ私達は子どもなのだ。なにもできない無力な子ども。

「ニーチェ、俺、絶対に攻略して、そして、」

「絶対お前を助ける、ヒーローになってやるよ!」

涙でぼやけた視界じゃアリババのかおは見えなかったけれど彼はとても眩しくて、ああ、まるで太陽みたいだ。
暖かいなにかに満たされたとき、寒気が体を支配した。

繋いでいた手を離してしまうと、彼はいってしまう。
離してしまったら、もうあえなくなる。

その現実が、辛い。

「ニーチェ、ありがとう。さようなら。」

大好き。

そういって、ゆっくりと手を離した。
ああ、消えてしまう。アリババが、消える。
もう目の前は見えなくて、泣きじゃくった。

アリババは頭を撫でてなくななくなといつも道理にあやす。
ああ、今日は早く寝よう。

「アリババ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ。俺が帰ってくるとき、そのはれた目なおしとけよ。」

「勿論よ、気を付けてね私のヒーローアリババ。ころばないようにしてね。」

いつもどうりの挨拶で、いつもどうりに。


「いってきます。晩御飯はカレーがいいな。」






「ニーチェおねえちゃん、きょうの晩御飯ななに?」

「ん?カレーよ。」

弟は目を輝かせた。しかしわたしの作る量をみて、めを見開いた。

「そんなに誰が食べるんだよ」

ケラケラ笑う弟に私はウィンクをした。

「よく転ぶ私のヒーローだよ」


ノックが二回、部屋に響いた。












title…秋桜様


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