短編レジェンズ&FS

□千年越しの愛を歌うよ
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「――!!」

俺は思わず絶句した。
それはよく見知った、懐かしい顔だったからだ。

「お?どーしたでかっちょー」
「いや…なんでもな…」
「シロン……?」
「!!」

少女は、俺の名前を呼んだ。
いや、少女ではない。
声も、姿も、あのときと一切変わらない。

「カヤ……!」
「シロン…!そう、シロンだ!」

カヤは思い出したと言わんばかりの表情で俺を見上げて、俺に駆け寄ってきた。

俺は昔のように、あいつを手でそっとすくい上げて自分の顔の目の前まで持ってきた。

ずっと昔のことだから、死んでいるはず。

ましてこんな少女の訳がない。

だがこの少女は紛れもなく、俺のサーガだった。

目に涙をためて俺の鼻面に頬をすり寄せてくる姿は、ひどくなつかしかった。

「え?え?なにどういうこと?」

風のサーガはあっけにとられていたが、一緒に来ていたメグが
「よくわかんないけど、邪魔しちゃダメよ!」と引きずっていった。

「その飛行帽、まだ被っててくれたんだね!」
「ああ。にしても…どういうわけなんだ?」
「私にもわかんない。だって今の今まで忘れてたんだよ?
なんだろ、分からないけど今は、自分のものじゃないけど、すごく懐かしい思い出で溢れてる。」

「ああ、わかるぜそれ。俺もだ。なにがともあれ、また会えてうれしいぜ」
「うん!」

ああ、こんな事ってあるんだな。

俺は割と冷静に考えていた。
世の中何が起きるか分からないとは、たしかにその通りだったな。

俺は千年昔に自分のサーガだった少女と、そのときと同じ姿のままでこうして会話をしているのだ。

お互いが今の今まで相手のことを忘れていたのに、姿を見て思い出した瞬間にこいつのことが愛しくてたまらなくなった。

なぜこんなにも大事なことを忘れていたのかと自分をふがいなく思ったが、
そんな驚きやふがいなさよりも、ただ喜びだけが何よりも勝っていた。

俺はカヤを背中においてやってから風のサーガに言った。

「おい、風のサーガ。ちょっとひとっ飛びしてくるぜ」
「え?ちょまってよー、おやつの時間になっちゃうよー!」
「ちょっとくらい待て。あとでちゃんと説明すっからよ。メグ、そこのバカ頼んだぞ」

カヤが俺の首輪にしっかり掴まったのを確認して、俺はゆっくり上空へ上がっていった。
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